WELLNESS
しなやかに生きるために。医師に聞く“女性ホルモン”との上手な付き合い方
Reported by Madoka Natsume
2022.9.15
女性ホルモンの変化によって、私たちのライフプランは大きく左右される。とくに30代から50代はその変化が著しく、出産を経験することで月経回数が減り子宮が一定期間休息できたり、また婦人科系の疾患や更年期障害に悩まされたりすることも……。女性ホルモンの分泌量は例外なく年齢とともにゆっくり低下していく。そこで、白金高輪海老根ウィメンズクリニックの海老根真由美先生に、変化する女性ホルモンとどううまく付き合うべきか、話を聞いた。
一生涯向き合う。女性の心身に影響する女性ホルモンとは?
そもそも「女性ホルモン」とはどんな働きをするのか?
私たちがよく耳にする「女性ホルモンのバランスが悪い」というキーワード。そもそも“バランスが悪い”とは、どんなことを指しているのか? 「女性の不調=女性ホルモンのバランスが悪い」とひとくくりにしてよいのだろうか。
「“バランス”という言葉が、そもそも何を軸にしているのかということですよね。確かに、女性のからだは卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)の影響を受けています。このふたつのホルモンのなかで、とくにエストロゲンは女性のライフステージ(年代)によって分泌量が大きく変化します。つまり、女性ホルモンのバランスが悪いとは、年代によるエストロゲンの分泌量によって、心身に影響を受けている状態と言えます」
卵胞ホルモン(エストロゲン)
- ■子宮内膜を増殖させて妊娠の準備をする
- ■自律神経を安定させる
- ■骨量を保持する
- ■コレステロールのバランスを整える
- ■肌のツヤやハリを保つ
黄体ホルモン(プロゲステロン)
- ■妊娠の成立に向けて、子宮の働きを調整する
- ■乳腺の発達を促す
- ■食欲を増進させる
- ■体内に水分を保つ
- ■気分を不安定にする
女性ホルモンから見る5つのライフステージ
エストロゲンの分泌量による変化によって、年代別における女性のそれぞれの節目について考えてみよう。下図のように小児期から老年期にいたるまで5つに分類され、とりわけ性成熟期、更年期にかけては妊娠や出産、婦人科系の疾患、更年期障害などさまざまな経験を迎える時期だ。
「私のクリニックでも20代から50代にかけての患者さんがたくさんいらっしゃいます。とくに30代、40代は女性ホルモンの分泌量がジェットコースターのように急激に下がる時期ですから、さまざまな心身のトラブルを抱えやすくなります。悩みも1つではなく、複数抱えている方も少なくはありません」
社会生活から見るとこの年代は、仕事での成果や責務に追われている人、家庭と子育ての両立に苦労している人、そのいずれも両立したいと懸命にがんばっている人もいる。置かれている状況は一概には言えないが、女性のライフステージのなかでは落ち着いているとは言い難い。
女性ホルモンから見る年代別の影響
女性が知っておきたい健康の常識
[女性のライフサイクルと健康]
女性ホルモンと深くつながる30代、40代。あらゆるサインを見逃さないで!
成熟期である20代と30代は、エストロゲンの分泌量がピークを迎えることから、妊娠や出産、あるいは、女性特有の疾患にもかかりやすく、先生のクリニックでも患者がとくに多い世代だそう。
「女性ホルモンの分泌がピークを迎える成熟期は、出産・妊娠を経験する方、不妊症の治療、婦人科の病気にかかる方などさまざまなケースがあります。例えば、妊娠・出産をしない場合、子宮は休むことなく活動し月経の回数が多いことから、月経痛や子宮内膜症、子宮筋腫といった女性ホルモンの分泌が多いことで起こる病気や症状が増えます。私のクリニックでは、そういった悩みを抱える方には子宮を休ませるためにも低用量ピルや漢方薬、ビタミン剤などを処方しています。痛みや症状をガマンして様子を見るのではなく、何か普段とは違うと感じたら、それは子宮が“サイン”を出している証拠ですから、放っておかないで婦人科に相談しましょう」
風邪を引いたらかかりつけの先生に診察してもらうのと同様に、成熟期を迎えたら気軽に相談できる“かかりつけの婦人科医”を見つけるのが得策だ。
現場医師に聞いた、30代、40代が
婦人科を受診する理由TOP3
- 1位 不妊
- 2位 子宮内膜症
- 3位 更年期による不調
女性ホルモンの変化とともに「これからのライフプラン」を考える
自分に合った改善法を見つけて、ラクになる
さきほども話したように、現代の女性は妊娠・出産の機会が減少しているため、昔より月経回数が増えている。さらに、責任のあるポジションでの仕事、対人関係のストレスなどが重なることから、体調を崩す女性も少なくない。
「まずお話ししたいのが、痛みをガマンしないということです。抵抗があるかも知れませんが、気軽に婦人科のドアを開いてほしい。症状や痛みは一人ひとり個人差がありますから、ある人には低用量ピルの服用が合っているかもしれませんし、漢方治療で改善する方もいらっしゃいます。仕事や趣味を充実させ、いきいきとした生活を送るためにも不安を感じていることがあれば、ひとりで抱え込まないでほしいですね」
長年ガマンしてきた月経痛も自分にあった改善法を見つけることで症状が軽くなるだけでなく、日々の生活が過ごしやすくなる。毎月、ある一定の期間、憂うつだったことが解消されることで、その時間をポジティブに、前向きに過ごすことができるのだ。
子宮・卵巣の主な病気
- ■子宮筋腫
- ■子宮内膜症
- ■卵巣のう種
自分の体調にフォーカスした日記をつける
月単位で心も体調も変化する女性のからだ。個人差はあるものの月経周期に合わせて、腹痛や頭痛、イライラなど気分のアップダウンがあるので、日常生活に支障をきたすこともある。そこで海老根先生がおすすめするのが、自分の体調に焦点をしぼった日記をつけることだそう。
「患者さんとお話ししていると、症状がはっきりしないケースがあります。例えば生理前になると体調が優れないといっても、その症状はいつから起こるのか、痛みの有無、どんなときに感じやすいのかなど、個人差があります。そこで、自分のからだのリズムを知るために、体調をメインとした日記を書くことをおすすめします。月経周期によって体調の変化がわかるだけでなく、月経周期のリズムに合わせた生活スタイルを計画することができます」
月単位で自分の体調を知ることで仕事の比重を調整することもできるし、休日の過ごし方も工夫できるはず。女性ホルモンの変化に合わせて生活リズムを整えることは、毎日をポジティブに生きるヒントになりそうだ。
月経周期に合わせたスキンケアで肌荒れを未然に防ぐ
普段と変わらないスキンケアをしているのに、肌のベタつきが気になり、ニキビや吹き出物に悩まされることがある。これらの肌トラブルもやはり女性ホルモンのバランスが乱れることで起こるそう。
「月経前になるとプロゲステロンのほうが多くなります。そうすると、皮脂の分泌が増えて肌が脂性に傾きやすく、毛穴に詰まりやすくなることから、ニキビや吹き出物が起こりやすくなります」
肌荒れは月経周期に合わせて症状が起こりやすいので、ひどくならないように日々のスキンケアを工夫するのも手。ベタつきが気になるなら余分な皮脂を抑える化粧水に切り替える、洗顔を普段より丁寧に行う、また、肌変化を見逃さないために鏡をよく見ることも肌トラブルを最小限にするコツ!
いきいきとした更年期を迎えるために今から準備すること
更年期に現れる不調・原因について
閉経前後の45歳から55歳ごろまでの更年期は、エストロゲンの分泌量が急激に下がることで、心身のさまざまな不調に見舞われることがある。これを更年期障害といい、心身の変化を感じやすい。
「患者さんを診ていると、更年期障害がいきなりやってくる方が多いですね。頭痛、めまい、不眠、のぼせ、ほてり、ホットフラッシュ、便秘、腹痛、乾燥など、症状は多岐にわたります。しかも症状は1つではなく、複数抱えることが多いのが特徴です。ただ、更年期を迎えると100%の方に起こるということではなく、その症状の度合いや感じ方は人それぞれです」
“いきなりやってくる”と聞いて、戸惑ってしまう方は少なくないはず。しかし、日々の習慣を見直すことで更年期の過ごし方もだいぶ変わってくるようだ。
「基本的なことですが、バランスのよい食事がとても大切です。体形維持を気にするあまり食事の量が極端に少なかったり、1日3食とらない方もいます。食事に関しては更年期に入る前から意識的に栄養価の高い食生活を心がけてほしいです。また、運動習慣をもつことも更年期を軽やかに過ごすポイントに。ウォーキングやヨガ、ストレッチなど楽しく長く続けられることを早い段階でスタートすると、更年期を楽しく過ごせるはずです」
更年期を明るく健やかに過ごすためには、今のうちから生活スタイルを見直すことが重要だ。
婦人科医に聞く、
来院する患者に多い更年期症状
- ■疲れやすい
- ■肩こり、腰痛
- ■汗をかきやすい
- ■怒りやすく、イライラする
- ■憂うつな気分になる
- ■頭痛、めまい、吐き気
- ■顔がほてる
- ■動悸がする
年代別 更年期障害の可能性:単数回答
時々、肌の調子が悪くなったり、イライラすると友人に「女性ホルモンの仕業だよね」なんてよく言っていた。なんとなく、女性ホルモンを“厄介な存在”と思っていたのだが、今回取材で、自分の女性ホルモンの変化を見逃さないことが、不調を乗り越えられるカギだと思った。今、まさに更年期を迎えているので、自分に対してやさしくなりたい。がんばり過ぎると疲れるだけ。いい意味で女性ホルモンの変化を少し言い訳にしながら、上手に付き合っていきたい。それから、3年前から始めた朝のウォーキングはこれからもずっと続けること、食事を見直すことを誓います。
MAYUMI EBINE | 海老根真由美
白金高輪海老根ウィメンズクリニック院長
埼玉医科大学医学部大学院修了。医学博士。2013年「白金高輪海老根ウィメンズクリニック」を開院。産婦人科、婦人科、小児科、乳腺外科、泌尿器科、内科のそれぞれ専門性のある医師が勤務。先生自身も妊娠と出産を経験していることから、働く女性でも通院しやすいクリニックになるよう土日祝日も診療を行うなど、患者の立場に寄り添う。
https://ebine-womens-clinic.com/
Photo: Chika Okazumi
Content Writing
Madoka Natsume | 夏目円
Beatuy Editor/Writer
大学卒業後、出版社で編集者を務めたのちに独立。20年間以上の間で3000件以上の取材・執筆を行う。美容を専門分野とし、20代から60代と幅広い年齢層の執筆・企画を行うほか、化粧品のコンセプト立案、コピー制作など幅広く行う。ヘアメイク、スキンケア、ダイエット、アロマ、フレグランス、ボディケア、ヘルスケアと幅広いジャンルに精通。2009年より『オールアバウト』にてスキンケアガイドを担当。時間のある週末は、『ひとり映画鑑賞会』と題して、カフェオレを片手にミニシアターで映画を観るのが楽しみ。