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人はなぜ、猫に引かれるのか。マタタビダンスだけではない7つの謎に迫る!

Reported by Naomi Sakai

2021.2.15

どんより重苦しい日々の中で、猫から笑顔やパワーをもらっている人は多い。古くから人間とともに暮らし人々を癒やしてきた猫は、身近な存在でありながら、その生態はいまだ謎のベールに包まれている。“猫博士”として知られ、長年にわたり猫の生態研究を行ってきた西南学院大学の山根明弘教授に、猫にまつわる意外な生態や知られざる魅力について伺った。

身近すぎて意外と知らない7つの猫トリビア

ペットの数は、日本ではついに猫が犬を逆転したといわれる。猫は人間にとって最も身近な生き物といえるが、意外と知られていない驚くべき事実がたくさんあることをご存じだろうか。まずは山根先生が教えてくれた、猫好きも知らないかもしれない、7つの猫トリビアからご紹介しよう。

見た目も習性も1万年前からほぼ変わっていない

猫と人類の最初の出会いは約1万年前。人間によって繁殖を管理された多くの家畜動物と違い、猫は姿形も習性も1万年前とほぼ変わっていない非常にまれな生き物だという。その理由は、ほかの家畜動物は食用が目的だが、猫はネズミを捕ってもらうことが目的だから。本能を失っては意味がないため、野生のハンティング能力がそのまま残されているのだ。

人間と比べて、聴力は5倍、嗅覚は10万倍

猫は体のセンサーが非常に発達した生き物。例えば嗅覚は、人間の約10万倍。空気中のニオイ物質を感じ取る嗅細胞の数は、人間の4千万に対し猫は2億ともいわれ、あらゆるニオイに対してとても敏感だ。また、聴力は人間の約5倍。人間が普通に聞こえる音域が20〜2万ヘルツなのに対し、猫は30〜6万5千ヘルツと人間よりはるかに高周波の音をキャッチすることができる。これは、猫が捕食するネズミが非常に高い音域で鳴くため、その存在を見逃さないよう進化した能力と考えられている。

時速50kmで走り、1.5mもジャンプする

また、猫のハンターとしての動きを支えているのは、爆発的な瞬発力をかなえる強靭な筋肉「白筋」と、柔らかくしなやかな背骨。この2つの機能を最大限に生かすことで、トップスピードは時速50km、助走なしで体の5倍の高さ(約1.5メートル)もの大ジャンプが可能に。

こうした身体能力のポテンシャルは、祖先であるリビアヤマネコの狩りによって磨かれ進化したもの。現在の猫にも、ほぼそのままの形で今に受け継がれているという。

猫が高いところから落ちたとき、瞬時に空中で体勢を立て直して着地できるのも、むちのように柔軟な背骨のおかげ。

「鍵しっぽ」は野生にはいない!

古くから幸運を招く猫として人々に愛されてきた「鍵しっぽ猫」。実はこの鍵しっぽ、野生だらけの猫の世界には存在しないことはご存じだろうか。走ったり高いところに上ったりする際にバランスを取るなど、しっぽは猫にとって重要な器官。そのため、しっぽが折れ曲がっている猫は、長く真っすぐなしっぽの猫に比べると運動能力が劣り、野生で生き抜くのは不利となるため、イエネコの世界でしか見られなくなったのだという。

謎すぎる“夜の集会”は、人間と共存するために身につけた習性

猫の七不思議のひとつ、「夜の集会」。夜な夜な集まって、戯れるでもなくけんかするでもなく、ソーシャルディスタンスをとってじっと座り込み、数時間すると1匹ずつ帰っていくというあの謎に包まれた行動は、群れる習性のない野生の猫ではありえない行動だという。メンバー同士の生存確認や情報交換など親密さを高める行動だと推測されており、人間とともに暮らし、街の中でいろんな猫が密に存在する社会となったため獲得した新たな習性ではないかと考えられている。

猫の“俗説”はほとんどが未解明!?
世界の猫研究と、マタタビにまつわる新発見

「人が猫と同じようにゆっくり瞬きすると、猫に安心感を与え猫との絆を構築できる」「猫は自分の名前を認識している」など、猫人気の盛り上がりとともに、猫と人間に関わるさまざまな事実が解明されている。

こうした猫にまつわる“俗説”は数多くあり、すでに猫と暮らしている人や猫好きにはよく知られていることなのだが、そのほとんどが科学的に解明されていないという。一体なぜなのか。

「飼い主に従順な犬に比べて、猫はもともと野性味にあふれ自由な行動を好む生き物。そのため、猫は反応や行動の実験データをとることが非常に困難な、まさに研究者泣かせの動物なのです。そのようななかでも近年、先進国を中心に、猫の心理や猫と人間の関係性を探るといった新たな研究テーマが進められています」

そんな猫研究について、つい先日発表されたばかりの最新のトピックをひとつ。猫の不思議な行動の代表格“マタタビ踊り”に関する驚くべき発見だ。

「猫のマタタビ踊りは、蚊除けのための行動であることが岩手大学の宮崎雅雄教授らの研究によって明らかになりました。実はマタタビには、猫を陶酔させるネペタラクトールという物質が含まれているそうですが、これには蚊を忌避する効果があることがわかり、猫はこのネペタラクトールに体をこすりつけることで蚊から身を守っていることが立証されたそうです。蚊はさまざまな病気を伝染させる厄介な存在。“マタタビに陶酔する”という猫の習性が進化したのは、陶酔する猫ほど蚊に刺されず病気にもなりにくいからかもしれませんね」

日本人の猫好きは飛鳥時代から!?
猫と日本人との深いつながり

古代エジプト時代、猫はすでにペットとして存在していた。紀元前1450年頃の遺跡の壁画には、首輪をつけた猫が椅子の脚につながれた様子や、餌の入ったボウルのようなもの、魚をかじっているところなどが描かれており、家畜としてではなく、ペットとして可愛がられていたことがうかがえる。では、猫と日本人との出会いはいつ頃なのだろうか。

「見野遺跡(兵庫県)で発掘された副葬品の須恵器の内側に猫の足跡が残っていたことが発見されてからは、飛鳥時代説が有力です。しかし、その翌年には長崎県の壱岐島のカラカミ遺跡から、猫の骨らしきものが発掘されています。この骨が猫のものであると断定されれば、猫の日本への伝来はこれまで考えられていたよりもはるかに古い、弥生時代にまでさかのぼります。今後DNA解析が進めば、世界に猫が広まった経路や年代の見直しにつながるかもしれません」

世紀の猫ブームといわれて久しいが、江戸時代には、現在をはるかにしのぐ一大猫ブームが巻き起こっていたという。

「江戸時代に発展した浮世絵には、猫が描かれた作品が数多く存在します。初めのうちは、ひとつのモチーフとして描かれていたのが、江戸時代後期になると、歌川国芳や歌川広重らが浮世絵の主役として猫を描くように。当時の庶民にとって猫は愛すべき特別な存在だったからこそ、受け入れられ、たくさんの作品が世に送り出されたのでしょう。ちなみにこのブームは幕末から明治初頭まで続きました」

古代エジプト時代に猫が神としてあがめられてきたように、実は日本にも猫を信仰の対象として大切にしてきた歴史がある。いにしえの日本人と猫とのつながり、そのルーツをたどる研究が、山根先生の目下のテーマなのだという。

「東北地方など養蚕が盛んな地域では、蚕を食べてしまうネズミを退治する猫を神様のように大切にしてきた歴史があります。こうした地域には、猫を祭った神社や猫を供養した塚などが残されており、京都の金刀比羅神社境内にある『木島神社』や新潟の『南部神社』には、狛犬ならぬ狛猫が鎮座しています。さらに、江戸時代後期に登場し全国に広まった招き猫も、昔の日本人が猫に特別な愛着を抱き、大切にしていた痕跡といえるでしょう。いにしえの日本人と猫との関係のルーツをたどれば、猫と人間の結びつきをもっと深く知ることができ、多頭飼育崩壊や殺処分など現代の猫問題解決の糸口となるかもしれない。人生100年時代を猫と人間が共に幸せに暮らしていくためのヒントになるのではないかと思っています」

Akihiro Yamane | 山根明弘

Doctor of Science, Zoologist

西南学院大学人間科学部・社会福祉学科教授。九州大学理学部卒、理学博士、動物生態学者。国立環境研究所、京都大学霊長類研究所などを経て、2016年から現職。野良猫が生息する島での7年間にも及ぶフィールドワークにより猫の生態を解明。猫博士として雑誌やWEBなどのメディア出演、講演など多忙な日々を送る。著書に『ねこはすごい』(朝日新書)、『ねこの秘密』(文春新書)などがあり、外国語にも翻訳されている。

Photo: Getty Images

Editor’s Note取材メモ

  • 毎朝のウォーキングと発酵食品作りで心身をリセット

    山根先生のリセット法は、コロナ禍のストレスや運動不足軽減のための日課「ウォーキング」。毎朝、博多駅から天神駅まで、街の風景を楽しみながら歩くのがルーティンになっているとか。また、自宅そばの畑で育てた有機野菜を使って発酵食品を作るのも新たな楽しみになっているそう。

Content Writing

Naomi Sakai | サカイナオミ

Beauty Writer

美容ライター。美容室勤務、美容ジャーナリスト齋藤 薫氏のアシスタントを経て、美容ライターとして独立。『25ans』をはじめとする女性ファッション誌や美容誌、web、百貨店媒体、広告などさまざまなメディアで執筆。ジャンルはメイク、スキンケア、ヘアケア、ヘルスケアをメインに、着物や占いまで多岐にわたる。無類の猫好き。