Live Active® LIFE

LIFESTYLE

気候変動活動家の小野りりあんさんに聞く「みんなができるサステナブル」

Reported by Saori Tsuchiya

2022.12.15

幼少の頃から自然を身近に感じる環境で育ち、質素な暮らしの中にある本質的な豊かさを両親から学んだという小野りりあんさん。モデル業と並行して環境ボランティアを長年行ってきたが、さらに一歩踏み出すきっかけとなったのは、気候変動によって深刻化したアマゾンの森林火災。以来ずっと「いま自分にできることは何だろう?」と自問し続け、それがご自身の心に火を灯す力に。そんな小野さんが日々の暮らしの中で実践していることを教えてくれた。

問題を見過ごさず声をあげたことで「ひとりじゃないんだ」と気づけた

質素倹約の生活を心がけてきた日本人の母と、スコットランドの大自然に抱かれ植物や動物を身近に暮らしてきたイギリス人の父の元に、青森県八戸市で生まれた小野りりあんさん。3歳から北海道札幌市に移り、14歳でモデルデビュー。モデルの仕事を続けながらも幼少の頃から自然を愛してきた小野さんがずっと気になっていた気候変動の問題に軸足を置くようになったきっかけは、アマゾンの森林火災のニュースだった。「ごうごうと燃え広がる炎を見て、このままではわたしたちが住めない地球になってしまう、と怖くなりました。いますぐできることを始めなければ、本当に人生が終わってしまう」。そんな切迫した想いを抱えながら、自分らしい活動のあり方を模索し始めた。

2019年には、できるだけ飛行機に乗らずに鉄道や船を使って世界の活動家たちに会いに行き、十人十色のアプローチ方法や考え方があることに刺激を受けた。2021年には、スコットランドで開催されたCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)に合わせて世界中から集まった同志たちと各国政府へのアピール活動に参加。近年は同世代の仲間と環境コミュニティを立ち上げ、気候対策強化を求めるデモや国際環境NGOに参加、新聞や雑誌、ブログや動画配信サービスなどで気候変動について発信、さらには講演活動を行うなど、小野さんらしいオープンなコミュニケーションを大切に、気候変動に対するアプローチを深めている。

「環境にまつわる活動を始めてわたしが得たいちばん大きなものは、人とのつながりだと思う」と小野さんは言う。「いままで他人に見せてこなかった懸念の部分を含めて、腹を割って話せる友達が増えたことがうれしいです。昔は、政治の話もよくわからないし興味が持てなかったけれど、いまは友人のおかげで関心を持てるようになり、どんどん掘り下げているところ。わたしの場合、情報源は本よりも人。知識が増えただけでなく、視野も広がった気がします」

お金をかけずに誰でもできるフレンドリーなサステナブルtips

オーガニックなものをはじめ、環境や人権に配慮して作られたものは、そうでないものに比べるとだいたいが割高。そういった点からエシカルなライフスタイルという選択肢は、使えるお金に余裕のある人たちの特権のように感じている人も少なくないだろう。「個人が努力をして(お金をたくさん稼いで)環境や人にやさしい選択ができるような暮らしを目指すのではなく、そういった選択が誰でも簡単にできる社会構造を作っていかないと。これは本来、政府の仕事だと今は考えています。いまの格差社会では、何かを安く手に入れることに喜びの動線がナビゲートされてしまっている人が多いです。そこを理解した上で、排除的じゃなく誰にでもできる選択は何なのかを考えたい。だから今日は『お金をかけなくてもできることがある』ということをお伝えしたいと思います」

■1:気に入ったものだけを持ち、長く大切に使う

「姉が生まれた39年前に親が記念に購入したハンドメイドのセーターは、エルボーパッチやダーニングで破れた箇所をデコレーション。穴が開いたジーンズは、友達がミシンステッチですてきに直してくれました。服だけでなく、もの全般に対し、壊れたら修理して使うのがマイルール。『新しいものをたくさん所有したい』という消費社会の刷り込みをデトックスして、数少ない本当に好きな持ち物にたっぷりと愛情を注ぐ喜びを味わいたいですね」

新しいものを買うときは十分に吟味し、手に入れたものは長く大切にし使い切る。愛着を持っていることが伝わるセーターとジーンズ。

■2:環境を考えた菜食ベースの食生活

「わたしは、過去3年間ヴィーガン(動物の搾取をできるだけしない選択を食品だけではなく他の製品においても選ぶこと)を実践中です。畜産業は温室効果ガスの排出など環境負荷が大きいので、ベターな菜食を選択。でも、皆さんにおすすめしたいのは、時と場合で柔軟に食を選択するフレキシタリアン。『新しい野菜のレシピを追加してみよう』『ヴィーガンのレストランを探してみよう』など、頑張りすぎないで菜食を取り入れてみてほしいです。例えばジャンクフードの代表格、フライドポテトだってヴィーガンです。堅苦しく考えずに始めてみてください」

ある日の昼食は、キャベツとがんもの野菜炒め、高野豆腐の揚げ物、じゃがいもと玉ねぎの味噌汁。野菜オンリーでも、しっかり下味をつけて食べ応え十分に。

■3:生ゴミはコンポストに入れて堆肥として循環

「生ゴミは本来、土に戻せば大地を元気にするものです。水分を含んだ生ゴミは、燃やすと大量のエネルギーを消費しCO2も発生させます。有機質の生ゴミを微生物の力で発酵分解すれば、土の量は増えません。必要であれば家庭菜園の堆肥にもできます。過去に何度もやっていますが、気温が低い北海道に引っ越してきてからはこれが初めてなので、日記をつけながらいちばん早く分解する方法を研究中です」

ホームセンターで木材をカットしてもらって小野さん自ら作ったコンポスターをベランダに設置。中には、微生物を混ぜた黒土を入れている。

■4:おばあちゃんの知恵袋的な楽しい倹約術を実践

「入浴剤がわりにみかんの皮で香りをお風呂でも楽しむ、プチ倹約テク。いままで捨てていたものでも、ちょっとした工夫で五感を楽しませる材料になるんです。おばあちゃんの知恵袋じゃないけど、日本の文化は元々すごく自然との距離が近いから、そこを掘り起こすと楽しいサステナブルライフのヒントがいっぱい見つかると思います」

みかんを食べた後の皮を干したものは、お風呂に浮かべれば柑橘の香りが爽やかな「みかん湯」に。もちろんお風呂で使った後は、コンポスターに入れればゴミになることなく循環。

大きすぎる問題にひるむのではなく、小さなところから変えていく

無理をして苦しくなるのではなく、楽しみを見いだしながら自分にできることを一人ひとりが実践する暮らしが、小野さんが目指すサステナブルライフ。「この社会には環境問題だけでなくいろんな問題があり、苦しんでいる人がいます。ひずんだ社会構造を少しでも健全な方向に変えていくために、みんなが参加できる市民運動を研究していきたいと思っています。人の想いが集まって作り出すエネルギー、それが社会に与える想像もつかないほどの大きなインパクト。わたしは、希望というビジョンがたくさんの人に伝わる風景を見たいんです」

そして環境や社会問題に対して誰もが確実にできる具体的アクションとして、2023年の春におこなわれる統一地方選挙への参加を提案してくれた。「わたしたちの暮らしに直結するという意味で、地方政治には希望があります。自分の住んでいる地域が向かう方向に関心を持って、いいと思う議員さんを積極的に応援してほしいです(できたら、こんな街に住みたいという願いも伝えてみてほしい)。小さい規模でも成功例が増えれば、周囲にいい影響を与え、励ますことができます。それが本当に社会を変えることにつながると思います」

小野さんのお話のなかで特に印象に残ったのが「環境問題への取り組みは、どの立場でもその人にしかできないことがある」という言葉。例えばわたしの場合なら、書き手として無意識にグリーンウォッシュ(上辺だけの環境訴求)に加担しないよう、知識や情報のアップデート、正直で誠実なコミュニケーションを心がけることが、いまの自分にできることなのかもしれない。結局、サステナブルな暮らしというのは、生き方・考え方そのもの。小野さんのように熱い想いを内に秘めながらも排除や否定から入らないやわらかな視点が、一人ひとりの背中をあたたかく押すのだと思った。

Lilian Ono | 小野りりあん

モデル、気候活動家

Green TEA (Team Environmental Activists)発起人。できるだけ飛行機に乗らず、気候正義活動家を訪ねる世界一周の旅の実践から、気候変動情報&アクションを自分らしく発信。
Instagram(@_lillianono_)、YouTube(@ririrhythm2339

Photo: Nakajima Fumiharu

Content Writing

Saori Tsuchiya | 土谷沙織

Editor & Writer

美術大学でファッションを学んだのち、女性ファッション誌の編集者として出版社での勤務を経て、フリーランスに転向。ファッション、ヘアスタイル、料理、インテリア、アート、健康など、女性のライフスタイルを中心に執筆。著名人インタビューも多数手がける。30代半ばでヨーロッパに語学留学をしたことをきっかけに、現在も英会話レッスンを日課としている。趣味はウォーキング、山登り。