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BEAUTY

コロナ禍で香りはもっと自由になった! 心を満たす“夏フレグランス”

Reported by Yumiko Murata

2021.7.15

日本の夏は高温多湿のため匂いがこもりがちで、フレグランスをつけるにはハードルが高いといわれ、避けている人も実際に多い。だが、コロナ禍において自分と向き合う時間が増えたせいか、昨年からフレグランスのニーズが、季節を問わずに一気に高まってきている。「嗅覚は五感のなかでも最も本能的なもの。コロナ禍という有事のなかで、自分の心の安定や心地よさを求める手段として、香りを求める人が多くなったのかもしれません」とフレグランスアドバイザーのMAHOさん。長年フレグランスに携わり、一般向けのパーソナルカウンセリングのほか、企業のアドバイザーや講師も多く務める彼女に、香りがもたらす心への影響について、そして梅雨が明けてますます暑くなるこれからの季節におすすめの香りと、まだ長引きそうなおうち時間を充実させるためのルームフレグランスの選び方について話を伺った。

コロナ前とは明らかに違う、フレグランスに対する私たちの意識の変化

これまでの日本人の香り選びの基準は、「好き」も多少はあったが、「人に不快感を与えない」「みんなに好かれる」が優先されていた。人気のフレグランスが極端に集中することも多々あり、例えばローズやせっけんなど、“日本人の香りの好み”は世界的にも認知されていたほどだ。

それが、「マスク&おこもり生活で一変しました」とMAHOさん。「人と会う機会が激減し、また会ってもマスクをしているから、はっきりと匂いがわからない。だからまわりの鼻を気にしなくていい、という考えが浸透してきたようです。今は自分が本当に好きな香りをまといたい。いえ、“かぎたい”という欲求が、本能的に強くなっているのだと思います」

コロナ以降、好調なフレグランス業界では、これまでのように一定の香りに人気が集中するのではなく、さまざまなノートにまんべんなく注目が集まっているという。この現象こそ、日本人の香りに対する意識革命を物語っている。

そして昨年、新型コロナという得体の知れないウイルスに振り回されたことも、香りに対する意識を高めた要因のひとつとMAHOさんは続ける。

「今回のコロナウイルスにかかると嗅覚と味覚が利かなくなるといわれ、『匂いがわからなくなると生活の質が下がり、楽しくなくなる』という認識が広まりました。これによって香りに対する人々の執着が、いい意味でぐっと高まったように感じます」

嗅覚は五感のなかで唯一、本能的な行動や喜怒哀楽などの感情に直接訴えかけるといわれている。

「何も意識をしなくても、リラックスやリフレッシュできたり、気分が高揚したり……それが香りの力。行先がまだ見えないなど不安を感じる今こそ、頼ってほしいと思います」

フレグランスアドバイザーのMAHOさん。パーソナルフレグランスカウンセリングを行う都内のプライベートサロンにて。

【Part1 まとう香り】
この夏は、フレグランスで“なりたい気分”に自分を導こう

香りはメンタルにダイレクトに働きかけるもの。心地よく、よりヘルシーに過ごすために、この夏は“なりたい気分”で香りを選んでみてはどうか。気分をスイッチするおすすめのフレグランスをMAHOさんにピックアップしてもらった。

1.常備薬のように使いたい“元気をくれる香り”

「今から出かける、仕事に取りかかる、やる気を出したい、シャキッとしたい……そんなときに頼りたいのは、新鮮味のあるフレッシュなノート。具体的にはハーバルなグリーン感と、目が覚めるようなシャキッとした清涼感がある香りです。集中力をぐっと高めてくれます」

「浄化して自分をニュートラルに戻すというコンセプトのセルジュ・ルタンスと、清涼感のあるヴァルモンの最新作。ミントの香りは利きすぎると歯磨き剤のようにチープになってしまいがちですが、こちらはシンプルで品よくまとまっています」

(左) セルジュ・ルタンス ローセルジュルタンス
(右) ヴァルモン ストーリエヴェネツィアン パラッツォノービレ フィジーミント

2.“おしゃれしたい”ときはセンシュアルな香りを手に取って

「マスクをしていると、まずリップが見えないし、ドラマティックなファッションを楽しむ気分にもなれませんよね。こういった制限のあるなかで、抑えつけられていたおしゃれ心をかきたて、女性としての自分を前面に出すお手伝いとなるのが香りです」

「ブランドのメインカラーでもある真っ赤なボディとキャップにスカルモチーフをあしらった、ルブタンならではのデザインが魅力のチュベローズの香り。“キス”というその名のとおり、過去の甘酸っぱい思い出をかきたててくれると同時に、人との営みや情愛を目の当たりにし、おうちにいながらも女性としてのほどよい緊張感を味わえます。一方、肥沃なナイルがイメージのシロは、エキゾティックなモダンシプレー。真夏の夕暮れから楽しんでほしいメロウな香りです」

(左) クリスチャン ルブタン ルビキス
(右) シロ ル シープル デュ ニル

3.目が覚めるようなビタミンの香りで、気持ちを“リフレッシュ”!

「気分転換したい、明るい気分になりたい、そんなときにおすすめなのが、ビタミンを感じさせるフルーツの香りです。肌に吹き付けるのもいいですが、思い切って空中にまいて柑橘の風を感じてみるのもいいでしょう。その場の雰囲気が一気に明るくなるはず」

「柑橘の明るいきらめきを感じさせるクルジャンのアクアヴィタエ。こちらはコロン仕立てなのでよりフレッシュ感が際立ち、それでいて奥行きも感じられる逸品です。ビーガンフレグランスのザ・ボディショップからは苦みが利いたスターフルーツの香りを。ヘア&ボディミストなのでシャワーのように浴びてもよいかもしれません。冷蔵庫で保管して冷たい状態でスプレーするのも、夏ならではの使い方」

(左) フランシス クルジャン アクア ヴィタエ コローニュ フォルテ
(右) ザ・ボディショップ ヘア&ボディミスト クレメンタイン&スターフルーツ

4.“リラックス”には、ロマンティックなフローラル&ベリー

「花々と果実の深みを感じさせるノートに、パウダリーなテクスチャーが加わったこの2品で落ち着いた気分に。例えるなら、お風呂上がりの清潔でまっさらな肌に、おしろいをはたいてマットに整えたときのような……。ふんわりと優しく、ほっこりとした瞬間を彷彿とさせてくれます。甘くやわらかいけれど、夏の空気にぴったりなテクスチャーを感じさせる香りです」

「どちらもバラの香りに赤い果実のフェミニンさが加わった香りで、浴衣にも似合いそうなパウダリックが魅力。HAIKUはジェンダーレスな側面も持ち合わせていて、実は男性にも人気のあるローズ。ローズ グリオットはタッセルの真っ赤な雰囲気がそこはかとなくロマンティックで、気持ちをやわらげてくれます」

(左) ミルコ ブッフィーニ HAIKU
(右) パルファン・ロジーヌ パリ ローズ グリオット

1カ所ではなく、分散させてつけるのが「自分をいい匂いにする」コツ

マスクをしている今は、匂いに気づきにくい環境ではあるが、やはりつけ方のコツもマスターしておきたい。基本のつけ方をMAHOさんが教えてくれた。

「例えば、首筋や手首などに集中してつけると香りが強くなるだけでなく、自分自身がその匂いに酔ってしまうことも……。上手に香らせるポイントは、“全身を包み込むようにつける”こと。体の広範囲に、それも洋服に隠れている部分につけるのが正解です。具体的には、両肩、ウエストのサイド、もも裏など全身で4~6カ所ほどに、それぞれ15㎝ほど離してスプレーしましょう。そうすれば、“香水が匂う”のではなく、“その人自身がいい匂い”という印象に。自分がいい匂いになると満足感が高まり、幸せな気持ちになれますよ」

つけ方ポイント

  • ・ 1カ所に集中させない
  • ・ 体の前面と鼻の近くは避ける
  • ・ 洋服を着る前に仕込む
  • ・ 両肩、ウエストのサイド、もも裏など4~6カ所に
  • ・ 15㎝ほど離してスプレーする

「暑さで香りが蒸発して匂いが飛びやすい夏は、肌のお手入れも大切。夏でもしっかりボディの保湿ケアをして肌にうるおいをキープすることで、香りがやわらかく、長く持続するようになります。またバスタイムなどで体の中の老廃物をしっかり出して肌を清潔に保つことで、ニオイの元となる常在菌の繁殖を防ぐことができ、汗のいやなニオイとフレグランスが混じることも防げます」

万が一、いやなニオイがする!と感じたら、無香料のボディシートで拭き取ればOK。肌がまっさらな状態になったら、リタッチをしてまた香りを楽しもう。


【Part2 空間の香り】
部屋別、時間別に香りを替えて、おうち時間をより快適に&充実させる!

家で過ごす時間が飛躍的に増えた昨年から、ルームフレグランスの注目も一気に高まってきている。だがルームフレグランスといっても種類はいろいろ。まずはそれぞれの特徴をMAHOさんが解説。

◯リードディフューザー

「近年、最も一般的なルームフレグランスです。インテリアの一部として意識されたデザインも多くておしゃれな印象。置いておくだけで、ほのかな香りが広がるのも魅力です。ただ、おうち時間が長くなってしまった今、ずっと同じ部屋にいると匂いに慣れてしまうことも」

◯ルームスプレー

「スプレーした瞬間に、しっかり香りを感じられるので気分転換に最適。また同じ空間でも手軽に香りのスイッチングができるので、例えばワンルームマンションで、睡眠、食事、仕事など、その時々で適した香りに替えられるのが魅力です」

◯キャンドル

「特にヨーロッパでニーズが高いルームフレグランスです。香りはもちろんのこと、明かりをともす瞬間の気持ちの切り替えや、ぬくもりのある炎の癒やし効果がとても高く、特別な時間をもたらしてくれます。ただ地震が多く、木造建築が主流の日本では、少し心配な側面も。キャンドルの芯をこまめに切ったり、壁のすすのお手入れなども意外と手間がかかるのが難点」

◯インセンス

「日本ではお香、線香といわれているような、燃やして香りを楽しむインセンスと呼ばれるタイプも注目を集めています。特にキッチンやダイニングなどにこもりがちな、料理や食べ物の匂いを消して空間の空気をリセットするのにとても有効です」

1.リビング
家族が集まるパブリックな場は、清々しく飽きのこない香りを

「リビングといってもダイニングとつながっていたり、兼ねていることも多いでしょう。家族が一緒に集まって長い時間を過ごし、食事もする。時にはお客さまもいらっしゃるというパブリックな空間です。爽やかで好き嫌いがあまりなく、料理とも相性の良い、柑橘やハーブなどの香りをおすすめします」

「お料理の匂いと調和するローズマリーが香るバンフォードのリードディフューザー。柳の枝をモチーフにしたデザインがナチュラルで、和風や洋風などインテリアを選ばないのが魅力です。同時に、火の力で空間の香りを一変させるインセンスも常備しておきたいところ。香りの強い素材や油っぽい料理の匂いを消してくれます」

(左) バンフォード ローズマリー ウィローディフューザー
(右) リスン青山 インセンス モーニングブリーズ

2.ワーキングスペース
仕事の専用部屋がなくても、スパイスの香りで集中力をぐっとアップ!

「リモートワークが増えて、自宅で仕事をする時間が長くなったと思います。専用の仕事部屋がある人もいれば、リビングがそのままワーキングスペースになっている人も多いでしょう。そんなときは、いつでも香りを替えられるポータブルなスプレーが便利です。シュッとひと吹きで、どこにいても仕事モードになれます」

「気分をアップさせてくれるロクシタンのイモーテルの香りは、かすかにスパイシー感があり、キリッと気持ちが引き締まります。アーバンアーユルヴェーダのターメリックが利いたエキゾティックな香りは、ハンドスプレーなので、持ち歩きにも便利。例えばカフェなどで仕事をするときなどに。シュッと自分の手に吹き付けるだけで、ピリッとしたほどよい緊張感が出て仕事モードに」

(左) ロクシタン プロヴァンスアロマ ルームフレグランス アップリフティング
(右) アーバンアーユルヴェーダ オールウェイズ

3.寝室
ファブリックにローズを香らせて、バラの花びらに包まれながら眠りにつく

「美容の香りといわれているローズを、美を育む就寝中にまとって眠るのはいかがでしょうか。それも空間ではなく、ファブリックフレグランスをシーツやナイトウエアにスプレーすることで、バラの花びらに包まれているかのような気分で眠りにつけます。さらにシーズナルな香りをプラスすることで、よりぜいたくな空間に。今でしたら、あえて水気を帯びた空気に寄り添うような香りのキャンドルがいいアクセントになります」

「ローズは、あまり甘すぎないフローラノーティスのフレンチローズを。トリガータイプなので広範囲にスプレーしやすく、見た目もおしゃれなので、部屋に置いていても抵抗はないでしょう。D.S.&DURGAのキャンドルは夏の雨や湿度を楽しむような香りで、ローズとのペアリングの相性も抜群。火はともさずに部屋に飾っておくだけでも香りを感じることができます」

(左) フローラノーティス ジルスチュアート フレンチローズ ファブリックフレグランス
(右) D.S.&DURGA ビッグサー アフターレイン

4.玄関
滞在時間が短いので、思い切って個性的な香りを試して

「出入りくらいで、あまり長くいることのない玄関では、普段あまり使わない個性のある香りを楽しむ絶好の場。空間にまいてもいいのですが、布にも肌にも使えるアロマウォーターを取り入れてみてはいかがでしょうか。玄関マットにしみこませておけば空間もいい香りになりますし、外出先から戻ってきたときにはタオルに吹き付けて足を拭けば、清潔な状態で家に入ることもできます」

「静謐なムスクや優しいジャスミンなどと、45種類の薬用植物から香りを抽出してブレンド。清らかなアンデス山脈の森林を力強く走り抜ける、美しいゲマルジカをイメージした香りです。ドラマティックで非日常的な雰囲気のある玄関に」

フエギア 1833 バイオアクティブモレキュールズ ウエムルS&T

好きな香りを、好きなように取り入れる…

「嗅覚と感情の関係は密接。だから本当に自分が好きな香りに出合えたときは、喜びを通り越して魂が揺すぶられる……と、これまで多くの人に伝えてきました。“まわりに気配りした香り”や“自分に似合う香り”を選ぶのではなく、“好きな香りを自由に取り入れる”人が増えた今、香りがもたらす可能性がさらに広がったと実感しています。例えば、ペアリングやレイヤーなどのカスタマイズも取り入れて、自分らしさを演出したり、変化を楽しむのもいいと思います。そうやって得られた心地よさは、ダイレクトに感情を揺さぶり、生きていることを実感したり、自己肯定につながっていくと思うのです」

今回さまざまなオケージョンで、さまざまな香りの取り入れ方を提案してくださったMAHOさん。気分や時間、場所で香りを自由自在に替えることで、より香りの効果を体感し、身近に感じられるのではないだろうか。そしてそれは私たちの毎日の生活の一瞬一瞬を、心地よく、輝きを添えてくれる気がした。

MAHO | マホ

Fragrance Advisor

フレグランスアドバイザー。外資系香水ブランド勤務を経て独立。500種以上の香水と、天然・合成香料がそろう「プライベート トワレ」を運営し、販売を伴わずにクロスブランドからの「パーソナルフレグランスセレクト」というオリジナルメニューをサロンワークにて実施。そのほか販売のプロの育成トレーニングサポートやセミナー、イベントプロデュース、メディア出演など、香りの第一線で活躍中。
https://private-toilette.com/

Photo: Tetsuo Kitagawa

Editor’s Note取材メモ

  • 夏の夕暮れ、ポマンダーバッグと共に香りを感じながらお散歩

    フレグランスにまつわるすべてのものが大好きというMAHOさん。最近、メゾンレクシアでセミオーダーした「ポマンダーバッグ」が届いたばかり。

    「ヨーロッパでペストが流行していた昔、病気は悪臭のする空気で伝染し、逆に良い香りは感染防止や治療に役立つと考えられ、シールドのように自分の周囲に香りを漂わせるポマンダーという穴の開いた容器を出かける際に持ち歩いていたといわれています。それにインスパイアされたのがメゾンレクシアのポマンダーバッグ。色や素材をすべて自分で選んでカスタマイズで作っていただきました。よく見ると全体がフレグランスのモチーフになっているんですよ。肩掛けのミニバッグなので両手を離せるのもいいですね。ここにフレグランスとスマホだけ入れて、お散歩に行くのが楽しみなんです」

    お散歩時には、マスクのひもに香りをつけたリボンを結んで行くのだそう。「よく『マスクにフレグランスをつけられませんか?』と聞かれるのですが、香りが強すぎるのと香水でシミになることがあるのでおすすめしていません。代わりにフレグランスをつけたリボンを結ぶことで、風が吹いたり、首を動かすたびに、ふわりと香りを感じることができます」。マスクとリボンとのコーディネートも楽しんでいるそう。日常的なお散歩が、特別でぜいたくな時間になる、MAHOさんらしいすてきなアイデアだ。

Content Writing

Yumiko Murata | 村田由美子

Beauty Editor

元『ELLE』ビューティ ディレクター。ファッション誌のビューティ担当を20年以上続け、フリーランスに。『エル・ジャポン』『エル・オンライン』のほか美容誌などでも執筆。食べることと赤ワイン、南の島をこよなく愛し、美容に悪いと思いつつもバカンスでは太陽をたっぷり浴びている(その分ケアもしっかりしています笑)。趣味はダイエットと歌うこと。