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FOOD

今こそ「発酵食」のススメ。
“菌との共同生活”に生きるヒントが見つかる?

Reported by Satoko Takamizawa

2021.1.15

今のように「菌活」がブームになる何年も前に発酵食の素晴らしさに目覚め、ホリスティック美容に取り入れてきた岸 紅子さん。お味噌作りの教室だけでも年に20回は行うという発酵食どっぷりの日々で、今では山梨県に野菜作りの拠点までもうけているほど。免疫の大切さが叫ばれる時代だからこそ、「発酵」をキーワードに、内側からもキレイと健康を育てたい——昔ながらの知恵をモダンに活かすあり方をうかがった。

「どうすると腸内細菌が喜ぶの? 美味しくなるの?」

もともとは都会育ちで、発酵食品を手作りするなんて思いもよらなかったという岸さん。美味しいものは好きだったけれど、発酵食品は買うもの、調味料は味付けのためのものだと思っていたとか。

「ところが、自分で作ってみるとその変化が面白いんです。奄美大島に伝わる発酵飲料のミキなどは、夏なら作った翌日にはプクプク発酵し始め、変化していくプロセスがわかる。発酵食品を作るのは、目に見えない生き物と暮らしているみたいな感覚ですね」

どうすると菌が喜ぶのか、美味しくなるのか考えているうちにその魅力にハマってしまい、気づけばキッチンは発酵食品だらけに。大豆やひよこ豆など素材違いの味噌は常時5〜6種類、塩麹に醤油麹、甘酒、野菜の三五八漬け(塩と麹、蒸し米で作る手軽な漬物)、豆乳ヨーグルトなどが常備され、食卓を彩ってくれているとか。

年末に仕込み、ただいま熟成中の手作り味噌。原料となる豆の種類を替えたり麹を替えたりして、味の違いを楽しんでいるそう。

人間の周りは菌だらけ。誰が作るかで、発酵食の味も変化

そして面白いのが、“誰が作るか”によって発酵食品の味も変わってくること。食材にも菌が住んでいるけれど、私たち自身も体内外にたくさんの菌を飼っている。そのバランスは人によって異なり、子どもの場合常在菌が、善玉菌だらけなのだそう。

「お味噌作りの教室には、なるべくお子さんも来ていただくんです。善玉菌を多く帯びているためか、子どもの手が入ったお味噌のほうが美味しいんですよ。私たちは、見えない“妖精”に囲まれて生かされているみたい(笑)。コロナ禍で免疫の力が注目される今こそ、善玉菌を育んで体を整えておきたいですよね」

そう語る岸さんの食卓は、やはり和食が多め。「我が家の食卓は、写真映えしないんです」と笑う“茶色がメインの食卓”だが、その生命力溢れる笑顔を見ていると、かつては肌が荒れたり喘息に悩んだ時期があったとは信じられないほど。美しさは健康という基本があってこそ叶うもので、発酵食品がその一助になっていると感じずにはいられない。

ライフスタイルを改めて、念願の出産へ

そんな岸さんにも、体調不良に悩まされ、出産を諦めた時期があったそう。

「もともと猪突猛進タイプなので、20代は仕事に邁進していました。朝晩もない生活、季節もわからない日々を送っていたおかげで体調を崩し、喘息をおこしてステロイドが手放せない毎日に。お医者様から“大人の喘息は良くなることがない”と聞かされ、生活を改めないと!と思っていた矢先に、子宮内膜症も見つかったんです」

手術を経て西洋医学のありがたみを実感すると同時に、それまで生理痛など不調を薬でごまかしてきたこと、体と心の声に向き合わないできたことを反省したのが30代前半。ウエルネスを突き詰めようと決意し、中でもがらりと変化したのが食事だった。

といってもベジタリアンやビーガンになったわけではなく、和食を中心にお肉やお魚もしっかり食べている。たとえば……と見せてくれた朝食は、酵素玄米から鮭の塩玉ねぎ乗せ、納豆に三五八漬けまで発酵食のオンパレード。こんな食生活を続けているうちに、一度は諦めかけた妊娠・出産の夢も叶い、「体は変化するもの」と確信したそう。

岸さんが監修し、福井県にある味噌蔵「マルカワみそ」で仕込んだ、ひよこ豆や有機玄米麹の味噌。チューブだからさっと出してお湯で溶く簡単スープにもおすすめ。(左)ベジキッチン オーガニック味噌 ひよこ豆みそスープペースト 200g ¥740、(右)同 345g ¥1,100

自然の摂理に逆らわずに生きたい

華やかなビューティ業界でキャリアをスタートさせた岸さんだけれど、気づけば発酵食品の達人となり、お味噌をプロデュースしたり、土作り、野菜作りを手掛けるなど興味がどんどん広がっている。

「たとえばバッグ型のコンポストを取り入れ、毎日の生ゴミは堆肥にしてベランダ菜園しています。また、発酵食を研究するうちに、野菜も自分で作りたい!と山中湖にも拠点を作りました。週末はそちらで見事な富士山を眺めながら泥だらけになって格闘し、微生物にまみれているんですよ」

お洒落を忘れたくはないけれど、たとえばブランド品を次々手に入れる、最新モデルを買うといったモノを消費する生活には興味がなくなった、ときっぱり。

「現代社会に生きていると、常に購買刺激にさらされますよね。でも、何かが壊れたら直して使うとか、体調を自分で整えていくといった生活のほうが気持ちがいいな、と。それに、コロナ禍にせよ気候変動や貧困問題にせよ、“自然と自分がつながっている”ことを忘れたことによって生じているように思います」

発酵食を極めるうちに、野菜作りや土作りにも取り組むようになった岸さん。東京と山梨の自宅では、ベランダでバッグ型のコンポストを使い、ゴミを減らし堆肥にしているそう。
岸さん手作りの塩玉ねぎと塩トマト。清潔な瓶に入れれば1〜2週間はもつので、ドレッシングにしたり調味料がわりに使ったりと大活躍。

自分の持っている発酵力に気づいて

自然の力といっても、現代的な生活をしている私たちには今いちピンとこないもの。けれど、簡単な発酵食を何か作ってみると、“身近な自然の力を引き出す”ことを目の当たりにできる。

「たとえば、乳酸発酵漬けと聞くと難しく感じますよね。でも、刻んだ玉ねぎやトマトを3%の塩水に漬けておくと、数日で発酵してマリネ液のようになるんです。“ほとんどの野菜には乳酸菌が付着している”と聞かされてもわからないけれど、作ってみれば、なるほど!と思うはず」

かつては薬に頼ったり、コスメを薬であるかのように頼っていた時期もあったと語る岸さん。だからこそ、コスメとうまく付き合い、肌の力、体の力も上手に引き出してほしいと発信を続けている。

自分を癒やすのは、自分の力。それを伝えてゆきたい

「緊急事態宣言でおこもり状態になったときに、公式YOUTUBEで“スキンケア瞑想”を発信したんです。毎日のスキンケアはセルフヒーリングを起こせるチャンスなので、一緒に瞑想しましょう、と。五感を刺激することで肌の調子も良くなるし、気持ちもほぐれます。瞑想によって幸せホルモンが分泌されるという報告もあるほどですから、ストレスの多い時代に、皆さんが求めていたのかなと思います」

3週間にわたり公開したところ、再生回数は1万回を突破。自分で自分を癒やす、キレイになる力を引き出すニーズを改めて実感することに。表面だけではなく、心にも体にも働きかけて美しくなろうというその姿勢は、これからの時代、ますます注目を集めそうだ。

Beniko Kishi | 岸 紅子

Holistic Beautician

NPO法人日本ホリスティックビューティ協会代表理事。環境省アンバサダー。親族や自身の闘病をきっかけにホリスティック医療を学び、現代女性のライフスタイルに取り入れる啓発活動をスタート。西洋医学のメリットや知見も享受しつつ、温活や腸活といった“自身でできるインナーケア”を提唱。ウエルネスビューティ講座の開催、サステナブルな商品開発やアドバイスで人気。

Photo: Masashi Kuma, Tetsuo Kitagawa
Hair & Makeup: Miho Kai

Editor’s Note取材メモ

  • 岸さんの1日の過ごし方は「集中と分散」、朝の時間を大切に

    お子さんのいる岸さんの生活は、朝の子どもの学校支度から始まり、夕方の習い事への送迎、食事の支度など、子育てが常に中心。「原稿を書いたり、資料をまとめたりと、頭を使って集中して行いたい仕事は、基本的に午前中にまとめています。そのほうが私にとって効率もよく、打ち合わせやバタバタした作業は、午後の時間に固めるようにしています。もし1日で終わらなそうな仕事でも、あまり夜遅くまで作業するのではなく、翌日の朝に早起きして、時間を確保するなど、1人で過ごすことのできる朝の時間を有効に使うことを心がけています」。また、1日のリラックスタイムは、夜の入浴時間。「季節を問わず、湯船にしっかりつかるようにしています」

Content Writing

Satoko Takamizawa | 高見沢里子

Beauty Editor

美容エディター。『25ans』『VOGUE JAPAN』編集を経てフリーランスに。『ELLE』『Harper's BAZAAR』などのWEB・雑誌記事の構成・執筆のほか、広告や書籍の編集も多く手掛ける。自身も敏感肌でアレルギーがあるため、「強い肌ほど美しい」をポリシーに、健康に裏打ちされたビューティを目指して日々切磋琢磨している。