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WELLNESS

お風呂研究20年の入浴博士が指南。
ニューノーマルなバスタイム術

Reported by Naomi Sakai

2021.1.15

おうち時間が増えたことで、入浴剤やバスグッズが飛ぶように売れているという。お風呂研究20年、入浴を医学的見地から研究する第一人者・早坂信哉先生に、入浴を習慣にすべき理由から、心身を健やかに保つ入浴法、入浴剤の選び方まで伺った。

37兆個の細胞ひとつひとつをケアする
究極の健康法、それが入浴

「パンデミックをきっかけに、入浴による健康効果が再び注目を集めています。そして、ここ数年のお風呂研究のトピックでは、そうした健康効果を裏付ける研究データが次々とエビデンスとして挙がってきているのも大きな特徴です」と、開口一番に早坂先生。

むくみの解消、筋肉の緊張をほぐす、体を清潔に保つ、自律神経を整えるなど、入浴でえられる効果はさまざまだが、最大のメリットは血流が促進されること。血液の流れがスムーズであるほど、人間の体を構成する37兆個の細胞のひとつひとつに酸素と栄養分を十分に運ぶことが可能に。

そのために大事なのは全身浴、湯船にしっかりつかること

言うまでもないが、体温より高い温度のお湯につからなければ、温浴効果をえることはできない。皮膚の表面が温まることで血管が広がり、血管の内側にある内皮細胞から一酸化窒素がでて血管がさらに拡張されることで、血流が良くなると考えられている。部分的に皮膚を温めるシャワーや足湯でも温められた血液が全身をめぐるため多少の温浴効果がえられるが、最大の温浴効果をえるためには、やはり全身浴。肩まで湯船にしっかりつかるほうが効果的だ。

血液が体内を一周する時間はおよそ1分。
温浴効果をえるには最低でも10分は必要

血液が体の中を一周するのに、かかる時間はおよそ1分。そのため、湯船に10分間もつかれば、温かい血液が体を10周することになり、皮膚表面だけでなく体の芯までしっかり温まり、深部体温が上昇する。この“芯まで温まる”ということが全身的な温浴効果をえるための重要なポイントとなる。湯船につかる時間は、5分だと体が温まりきらず温浴効果も中途半端。最低10分、ゆったりつかりたい場合は15分程度がおすすめだ。逆に、20分、30分と入浴時間が長びくと体が過剰に温められてしまい、熱中症のリスクが上がるので要注意。

湯船の最適温度は、38~40℃がベスト

お湯の温度は、熱すぎてもぬるすぎてもいけない。特に夜の入浴では湯温を高くしすぎないことが重要で、熱すぎると交感神経のスイッチが入ってリラックス効果がえにくくなる。そのため湯船の最適温度は、38℃から40℃が理想的だ。熱めのお風呂が好きな人は多いが、42℃と38℃で、その後30分の体温の保温効果を測定した実験によると、42℃では体温が1.5℃上昇するが、入浴後は急速に体温が低下。一方、38℃では湯船に入った瞬間の温まりは悪いが、入浴後の体温低下が緩やかでポカポカした状態が長持ちすることがわかった。保温効果が高ければ、当然血流の良い状態が続くため、38℃で入浴するほうが健康効果が高いということになる。

仕事が終わったら、まずお風呂。入浴をオンオフのスイッチに

リモートワークの日常では、お風呂というアクションをスイッチに使うと、リラックスモードへの切り替えがスムーズになる。仕事が終わったら、38〜40℃のぬるめの湯船に10〜15分程度つかり、それ以降はパソコンを開かないようにするだけと簡単なので、比較的習慣にしやすいはずだ。副交感神経が優位になって、眠りの質も高まり、仕事などでのパフォーマンスアップも期待できる。

入浴習慣で血流をアップしておけば、
ディフェンス力の高い体を維持できる

入浴はこうした心身のケアだけでなく、免疫力アップにも役立つと言われる。病原体から私たちの体を守る免疫細胞は、私たちの体の中をパトロールしながら回っているため、血液の流れが良いほど免疫力が高まる。唾液の中に含まれるIgAというウイルスをやっつける抗体は入浴後に増加。また、お風呂のような湿気を帯びた環境では異物を外に出す喉や鼻の線毛細胞の動きが良くなったり、温泉につかったあとは一時的に免疫細胞の数が増えたりと、入浴には免疫力アップにつながるメリットがたくさん。習慣にすることで、ディフェンス力の高い体を目指すことができるだろう。

ターンオーバーが正常化され、
肌の透明感やハリ、滑らかさがアップ

温熱効果で血液の流れがスムーズになると、体のすみずみまでたくさんの血液が巡るようになり、酸素や栄養分、ホルモン、免疫物質などが運ばれると同時に二酸化炭素や老廃物などの不要なものが回収され、全身がすっきりリフレッシュされる。1万4000人の入浴習慣を3年間追跡した早坂先生の研究によると、毎日湯船につかることによって、新規で介護状態に陥るリスクが3割も減ったというデータも。また、肌がきちんとターンオーバーされ透明感や滑らかさを保ちやすくなったり、アミノ酸が運ばれてコラーゲンが増えシワができにくくなったりと、美容面でのメリットも大きい。

早坂先生の著書『お風呂研究20年、3万人を調査した医者が考案 最高の入浴法』(大和書房)。

早坂先生流、2021年の入浴Tips
最新3カ条をまとめてみた!

1、「医薬部外品」「浴用化粧品」まではセーフ、
雑貨扱いの入浴剤はアウト!

入浴剤は温熱作用や保湿効果、リラックス作用などさまざまなメリットがえられるため積極的に活用したいもの。ただし、原材料の安全性にこだわって選ぶことが何より重要だ。

「入浴剤は、ドラッグストアや化粧品売り場だけでなく、至る所で販売されていますが、どれを選んだらいいのか迷ったら、医薬部外品か浴用化粧品と明記されているものを選んでください。この2つは、安全性と有効性について国の医薬品医療機器等法による規制を受けているので安心して使うことができます。何も書かれていないものは雑貨扱い。肌に直接触れるものだからこそ、ぜひこだわって」

2、アウトバス後の保湿リミットは10分。
アウトバス後は、すぐに潤い補給を

入浴の唯一のデメリットが、乾燥。入浴後は自分が思っている以上に急速に水分が奪われるため、アウトバス後はすみやかに保湿を。

「入浴後はとにかく乾燥しやすいので、何を使うかよりも、いかに早く保湿するかが大切です。湿気の残ったバスルーム内でボディケアをすると、潤いが奪われにくく、より乾燥を防ぎやすくなります」

3、入浴剤の効果効能は多種多様。
目的別に賢く使い分けよう

長引くおこもり生活で、お風呂需要がアップ。ドラッグストアの売り上げTOP10にもマスクや消毒液に交じって入浴剤がランクインしているという。ソルト、炭酸、酵素、温泉の素など、入浴剤の種類は多種多様。気分で選ぶのもいいが、それぞれの効果効能を知って、目的に応じて使い分けるのがベスト。

「“〇〇の湯”といったネーミングの無機塩類系は、実際の温泉を参考にしてミネラル成分が入っているため、気軽に旅行ができない今、温泉気分も味わえるのでおすすめです。筋肉疲労が気になるときや熱いお湯が苦手な人は炭酸ガス系を。皮膚から炭酸が直接吸収されて血管を広げるので、ぬるま湯でも血流がスムーズに促進され早く温まることができます。肌の乾燥が気になる人は、水道水の塩素を中和する成分の入った保湿系がいいでしょう」

Shinya Hayasaka | 早坂信哉

Bath & Spa Medical Researcher

温泉療法専門医、博士(医学)。東京都市大学人間科学部教授。日本健康開発財団温泉医科学研究所所長、日本銭湯文化協会理事、日本入浴協会理事。生活習慣としての入浴を医学的に研究する第一人者。メディア出演も多く、『お風呂研究20年、3万人を調査した医者が考案 最高の入浴法』(大和書房)など著書も好評。早坂信哉先生Official Site

Photo: Tetsuo Kitagawa, Getty Images

Editor’s Note取材メモ

  • 入浴は誰でもいつでも実践できる最も優れた健康法!

    もともとは内科医として、高齢者の多いエリアでの地域医療に携わってきた早坂先生。血圧の高い高齢者を安全に入浴させるためのガイドラインがなかったことからお風呂研究がスタート。のべ3万8000人もの入浴習慣を調査し、その膨大なデータをもとに高齢者が安全に入浴を行うためのガイドラインを完成させたそう。

    「入浴こそ誰でもすぐに実践できる、もっとも簡単で、かつ優れた健康法であるという確信をえることができました」と早坂先生。

    とても身近で手軽なうえ、正しく賢く活用すれば免疫力アップや美容効果などたくさんのメリットをえられるお風呂。普段シャワー派の人も今日からぜひ習慣に!

Content Writing

Naomi Sakai | サカイナオミ

Beauty Writer

美容ライター。美容室勤務、美容ジャーナリスト齋藤 薫氏のアシスタントを経て、美容ライターとして独立。『25ans』をはじめとする女性ファッション誌や美容誌、web、百貨店媒体、広告などさまざまなメディアで執筆。ジャンルはメイク、スキンケア、ヘアケア、ヘルスケアをメインに、着物や占いまで多岐にわたる。無類の猫好き。