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WELLNESS

今、「心の揺らぎ」を感じている人に。日常の休息とセルフケアのすすめ

Reported by YUMIKO MURATA

2022.3.15

春になると、肩コリなどの不調がいつも以上に続いたり、また、ぼーっとしてやる気が出なかったりなど、体だけでなく心も揺らいでしまう人が多いよう。この時季ならではの心身に及ぼす影響とは? またその原因と対策は? 精神科医で産業医としても多くの人々のカウンセリングにあたっている奥田弘美先生にお話を伺った。

春になると、メンタルのバランスが崩れやすくなるのはなぜ?

「春は寒暖差が激しく、日によっては10℃くらい温度が変わることもあり、気圧の変動も大きいです。この独特の気候が自律神経に大きな負担をかけることに」と奥田先生。

自律神経は、体温調節やホルモンバランス、血管の収縮など、循環器、呼吸器、消化器など、私たちが自分ではできない体の調整を行う神経。 体の活動時や昼間に活発になる「交感神経」と、安静時や夜に活発になる「副交感神経」があり、この2つの神経がバランスをとりながら24時間働くことで、私たちの健康が保たれている。

「自律神経が乱れると、うまく睡眠がとれない、感情の調節ができない、消化不良、めまいなど、体調にもメンタルにも大きく影響が及びます。不安や緊張が高まるなか、具合もよくない…それがさらにメンタル面の不調『春ウツ』につながってくるのです」

さらに社会的な変化も春の不調の原因のひとつだ。

「日本は3月から4月にかけて環境の変化を迎える人が多いですよね。職場での部署異動、新しいプロジェクト、昇進、転勤といった変化は緊張を与え、それが知らず知らずにストレスになっていることも。自分自身に変化がなくても、部署に新しい人が入ってくる、家族が転勤になる、子どもの入学や卒業なども緊張感を伴います。また引っ越しをする人も多いと思いますが、準備で疲れたり、新しい住居環境に適応するために相当気を使うでしょう。これらも自律神経を乱し、メンタルのバランスの崩れにつながる可能性があります」

忙しい人、まじめな人ほど、バランスを崩しやすい傾向に

気候の変動や環境の変化はだれにでも訪れること。ではバランスを崩してしまう人とそうでない人の差はどこにあるのだろう。

「まず、春先に例年以上に大きな環境の変化が続く人は、少し注意して自分を観察することが必要です」。仕事、家庭、友人関係、住居など、環境がどのくらい変わっているのかを意識することで、自分のストレスの大きさを測ることができ、その分対策も立てることができるということ。

「また、もともとの性格ががんばり屋さんで、完璧主義者の方も、メンタルのバランスを崩しやすい傾向に。特にまわりの空気を読みすぎて気を使ったり、NOと言えずに何もかもしょい込んでしまう人は疲れやすく、それがメンタルに影響を及ぼします」。時には人に任せたり、適度に休みをとるなど、バランスをうまくとることが大切だ。

メンタルの不調を少しでも感じたら、休息&セルフケアを

いつもと調子が違う、やる気が出ない、落ち込んでしまう……もしそんな症状が続いたら、メンタルのバランスが崩れている可能性があるかもしれない。少しでも傾向が見られたら、日常生活を見直してみよう。ポイントは以下の3つ。

① 睡眠

「もっとも大切なのは睡眠です。理想の睡眠時間は7時間以上ですが、最低でも6時間以上の連続した睡眠を確保しましょう。実際に良質な睡眠を得られない人は、うつ病になりやすいということがわかっています。寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚めてしまう、朝すっきり起きられない…という人は睡眠環境を見直してみましょう」

ポイントは眠る1~2時間前から、「眠る準備」をすること。

「まず、ネットやSNS、ゲームをしないこと。ブルーライトは脳を活性化するので、眠る直前まで浴びることで睡眠の質は著しく低下します。気を使うようなことはせず、ゆったりと過ごしましょう。お風呂もゆっくりとリラックスできる雰囲気で入り、副交感神経を優位にもっていくことが大切です」

睡眠のための環境づくりも大きなポイントに。

「夜間は間接照明で過ごし、『夜だよ』と体と頭にわからせ、自然の眠気を促しましょう。そしてカフェインを含んでいる飲み物は、眠る5時間前からとらないこと。アルコールは眠気を誘いますが、眠りが浅くなり、途中で起きてしまいがちです。3時間ほどで抜けるので、夕食時にたしなむ程度がベストです」

② 食事

「栄養素をきちんととることも、メンタル面には重要です。特に疲労回復のために必要なタンパク質を意識してとりましょう。鶏ムネ肉、豚肉、かつお、卵などの動物性がおすすめです。調理法は蒸す、ゆでる、グリル、鍋などであまり油っぽくしないこと。魚はお刺身もいいですね。あっさりと料理することで低カロリーになりますし、食べやすく、胃に負担がかかりません。そして同量の野菜、できれば栄養価の高い緑黄色野菜をプラスしましょう。さらに主食を添えれば完璧です」

細かい栄養計算をするとそれが逆にストレスになる。毎食、主菜、副菜、主食が揃った、いわゆる「定食ふう」を意識することで、自然とバランスよく栄養をとれるそう。

「ダイエット中の方のなかには主食を避けている人もいるかもしれません。ですがメンタルの不調を感じているときは、召し上がったほうがいいでしょう」

③ 休息

「メンタルのバランスが崩れるということは、疲れがたまっているということ。思い切って休息をとりましょう。時にはぐーたらしてもいいんです。仕事を人に頼んだり、家事はクリーニングや掃除代行などアウトソーシングを利用したり、食事は全部自炊をしないで一品は買ってくるなど、上手にさぼることが必要です」

習い事なども楽しみではなく、少しでも負担に感じるようなら、あえて休むのも手。家族とのお出かけも無理はせず、疲れ具合によってうまく調節するようにしたい。

大切なのは無理をしないこと。自分の心と体の声に耳を傾けて

「春ウツはほうっておくと適応障害や本格的なウツにもなりかねません。また体の不調をさらに悪化させ、ストレス性胃炎、メニエール病といった病気や不眠症などを引き起こすことも」。少しの症状でも見逃さず、セルフケアを心がけていきたい。

「春はお花見など楽しいイベントもある季節。自分でメリハリをつけて調整することで、心の安定がキープしやすくなり、毎日をポジティブに過ごせるはずです」

HIROMI OKUDA | 奥田弘美

Psychiatrist,Occupational physician

精神科医・産業医・労働衛生コンサルタントとして都内20カ所の企業で働く人の心身のストレスケアに日々携わる。また執筆活動も精力的に行い、「より良い生き方」をテーマに多数の著書がある。近著は『会社がしんどいをなくす本』(日経BP)、『不安と折り合いをつけてうまいこと老いる生き方』(すばる舎)など。

Editor’s Note取材メモ

  • 自分らしさを感じるのは、家族との団らんのひととき

    普段はいろいろな患者さんと向き合っている奥田先生。自分を抑え、体調の悪い人たちの悩みをじっくり聞き、治療プランを考えたり、企業側に対応策を提案するなど、緊張が続く日々を送っている。そんな奥田先生が素の自分に戻れるのは、家族との時間だ。
    「夫と大学生と高校生の2人の息子がいるのですが、家族との時間がいちばんのリラックスタイムになっています。食事をしたり、テレビを見てみんなで笑ったり、ちょっとした旅行なども。仕事と違ってまったく気を使わずに済むので、素の自分でいられるんです」

Content Writing

Yumiko Murata | 村田由美子

Beauty Editor

元『ELLE』ビューティ ディレクター。ファッション誌のビューティ担当を20年以上続け、フリーランスに。『エル・ジャポン』『エル・オンライン』のほか美容誌などでも執筆。食べることと赤ワイン、南の島をこよなく愛し、美容に悪いと思いつつもバカンスでは太陽をたっぷり浴びている(その分ケアもしっかりしています笑)。趣味はダイエットと歌うこと。