TRAVEL
“美肌の湯”を科学する!次に行きたいキレイになる温泉宿リスト
Reported by Yuumi Fuji<dis-moi>
2021.2.15
湯けむり、浴衣、おいしいごはん、そして翌朝のあのツルツル肌……いつでも私たちの心と体を癒やしてきた温泉宿。気軽に行けなくなってしまったからこそ、その思いはより強くなるばかり。今こそ”美肌の湯”といわれる温泉についてより深く知り、次に行く、キレイになるための旅の計画を立ててみよう。
温泉ビューティ研究家が指南。
「温泉は生まれたての化粧水」
旅のナビゲートをお願いしたのは、日本で唯一、温泉ビューティ研究家の肩書を持つ石井宏子さん。旅好き・宿好きが高じて、トラベルジャーナリストとなった彼女の前職は外資系化粧品会社のPR。そのときに培ったノウハウをもとに、温泉とビューティをリンクさせて語ることができる稀有な人だ。
「美容の世界にいたため、化粧品を見るとどんな成分が入っているのかをチェックしてしまうんです。同じように、温泉の泉質も成分表を確認すると、何がどう作用するのか考えるクセがついていて。そこから泉質について、さらには、そのお湯が生まれる地形を詳しく調べるようになりました。そもそも温泉は、生きている地球の恵みそのもの。さまざまなミネラルが溶けだし、組み合わさることで私たちに大きな恩恵をもたらしてくれるのです。例えば美容面で見ると、優しく癒やしてくれる系と、活を入れて生き生きさせる系があります。これらは泉質によって分けることができます。温泉はある意味“生まれたての化粧品”。だからこそ、泉質の特性を知り、用途別に化粧品を選ぶように行き先を決めるのもいいかと思います」
美容目線でセレクト。
石井さんの美肌の湯BEST3は?
美と健康に作用する主な泉質の分類は10種類あり、ここから石井さんに“美肌の湯”といわれる3つの泉質とその特徴、さらにおすすめの温泉宿を教えていただいた。
1.すべすべ美肌の湯【炭酸水素塩泉】
ナトリウム・炭酸水素塩泉(重曹泉)は、石けんのような働きがあり、お湯につかることで皮膚の皮脂やタンパク質と結合し、古い角質や肌の汚れを落として、つるんとしたすべすべな肌に。
【石井さんおすすめの宿】
鹿児島県 妙見温泉 妙見石原荘
湧き立ての温泉のパワーをぜいたくに満喫
鹿児島空港から車で約15分という近さなのに、隠れ湯の雰囲気を漂わせる妙見温泉。霧島山系を源とする湯量豊富な温泉としても知られている。
「中でも『妙見石原荘』は、地球から湧き立ての温泉の新鮮さを大切にしているところ。自然湧出する源泉を真空管のような状態で熱交換して適温にし、湯船へと届けます。注ぎ口の温泉は、シュワシュワと音を立てて炭酸の泡が弾けているのがわかるほど!」
7本ある源泉に合わせて露天風呂や内湯が点在しているうえ、『薬泉』と書かれた飲泉所では、ミネラル豊富な微炭酸の温泉を体に取り入れることもできる。
「さらに“特別度”を高めるのが、モダンな客室の『石蔵』。渓流を眺めるリビングの横には、専用の温泉露天風呂があり、いつでも新鮮なお湯を楽しめます」
鹿児島県 妙見温泉 妙見石原荘
泉質 : ナトリウム-カルシウム-マグネシウム・炭酸水素塩泉
住所 : 鹿児島県霧島市隼人町嘉例川4376 ☏0995-77-2111
料金 : 1泊2食付き¥24,350~(1名1室)カード使用可
客室 : 19室 チェックイン15:00 チェックアウト11:00
2.めぐりの湯【硫黄泉】
硫黄は毛細血管拡張作用で血行を促進し、肌と体の代謝をサポート。いらないものを排出し、内側から肌のツヤ、輝きを高める。まさにインナービューティ的な作用。
【石井さんおすすめの宿】
徳島県 祖谷温泉 和(な)の宿 ホテル祖谷(いや)温泉
とろんとした秘境の湯で感動体験
日本三大秘境のひとつで、世界からも注目されている祖谷温泉。祖谷渓谷の深い谷の上に立つ「和の宿 ホテル祖谷温泉」の温泉は、宿から専用のケーブルカーに乗り込み、季節の色どりを感じながら祖谷渓谷の谷底へ。
「渓流へ突き出すようにある源泉かけ流しの露天風呂は、お湯に触れたとたんにわかるほどの“とろんとろん”の感触。源泉温度38度という体温よりほんのり温かいまろやかな“ぬるま湯”は、いつまでもつかっていられる心地よさです」
眼下に広がる川面は、源泉が混ざり合うことでエメラルドグリーンに移ろっていく。それをぼーっと眺めながらの入浴は、まさに至極のひととき。
「しばらくつかっていると全身に微細な泡がつき、それを指で触れるとスッととろけて消えていく。他では味わえないこの入浴体験を、ぜひ一度お試しを」
徳島県 祖谷温泉 和の宿 ホテル祖谷温泉
泉質 : アルカリ性単純硫黄泉
住所 : 徳島県三好市池田町松尾松本367-28 ☏0883-75-2311
料金 : 1泊2食付き¥30,400~(1名1室)カード使用可
客室 : 20室 チェックイン15:00 チェックアウト11:00
3.しっとり美人の湯【硫酸塩泉】
“傷の湯”とも呼ばれ、肌へ水分を運び、潤いを与える保湿の湯。化粧品でいうなら、化粧水やクリーム的な役割。温めながら保湿することで肌の修復力を高め、肌の弾力をサポートする。
【石井さんおすすめの宿】
石川県 山代温泉 あらや滔々庵
極上の温泉と美食のもてなしを
北陸の名湯、山代温泉の中心で、藩政時代に前田家歴代藩主より湯番頭の命を受けて以来、現在十八代の湯歴を数える老舗宿。街中にありながらも、山庭に面した景色はほっと肩の力が抜けるような心地よさだ。
「典型的なしっとり美人の湯です。湯元ならではの豊富な湯量は1日約10万リットルを誇り、温泉はすべて源泉かけ流し。全17室のうち10室が源泉を引いた半露天風呂付きのモダンな設えの部屋だから、プライベートな旅をより満足させてくれます」
中でも注目したいのが、北陸ならではの魚介、加賀野菜を使った料理の数々。四季折々の加賀の豊かな恵みを堪能できる。
「本当においしいものをいただきたくなったらここを訪れるほど。北陸は蟹が有名ですが、春夏の時期の海の幸も最高です。まさに、日本海は食を1年中楽しめることを実感できます」と、石井さんも大絶賛。美食家の北大路魯山人ゆかりの宿として、当時の作品に触れられるのもぜいたくだ。
石川県 山代温泉 あらや滔々庵
泉質 : ナトリウム・カルシウム一硫酸塩・塩化物泉
住所 : 石川県加賀市山代温泉18-119 ☏0761-77-0010
料金 : 1泊2食付き¥38,500~(1室2名利用時)カード使用可
客室 : 17室 チェックイン14:00 チェックアウト11:00
泉質の特性を生かして全身のスキンケアを
「日本は水が豊かで、約28,000の温泉が登録されていますが、自然のものですから毎日微妙に泉質が違う。お湯との出合いは一期一会。だからこそ、同じ温泉に何度足を運んでも新たな感動を与えてくれるんです。たとえ温泉郷内で源泉が同じでも、隣同士の宿でもお湯が違う場合もあるし、宿内でまったく異なる泉質の温泉があったりもする。これを意識して、温泉郷内の温泉をめぐるのも楽しいですよね。その場合は、クレンジング作用のある『炭酸水素塩泉』に最初に入り、血行を促進する『硫黄泉』、最後に『硫酸塩泉』でしっとりさせるなど、スキンケア感覚でめぐるのがおすすめです」
行き先を決めたら、そこまでの旅路を調べるとともに、温泉の泉質を確認する。“知る”ことで、これまで何げなく入っていた温泉もまた別の魅力が見えてくる。今はなかなか移動ができないけれど、それまでは美肌の湯に思いをはせてみよう。
Hiroko Ishii | 石井宏子
Onsen Beauty Specialist
Travel Journalist
温泉ビューティ研究家・トラベルジャーナリスト。温泉の美容力を研究する日本でただひとりの温泉ビューティ研究家。旅に出かけて宿に泊まることをライフワークとし、トラベルジャーナリストとして取材・執筆、講演などで日本・世界を旅する。温泉地の自然環境にも着目し、ドイツ・ミュンヘン大学アンゲラ・シュウ気候医学教授に学び「気候療法士」資格を取得。温泉、自然環境、食事、宿での過ごし方などを通じて、心も体もキレイになる新しい旅“ビューティツーリズム”を提唱。
「温泉ビューティ®」
https://www.onsenbeauty.com
Photo Cooperation: Myokenishiharaso, Iyaonsen, Araya Totoan, Kannon Onsen, Getty Images
Photo: Sadato Ishizuka
Editor’s Note取材メモ
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なかなか旅行がままならない今、入浴剤で温泉効果を楽しむ
年の半分は日本や世界を旅していた石井さん。しかし、コロナ禍において、世界への旅行はおろか、国内旅行すら簡単にはかなわなくなったため、取り入れたのが“家風呂の充実”。季節に合わせて湯船に果物を浮かべたり、源泉をボトリングした温泉水を取り寄せ、それで顔や体を洗ったり、入浴剤にしたり、1日1回、お風呂で毎日をリセットしているそう。
春先は冬の寒さで肌にため込んだものをリセットするのに、伊豆奥下田の「観音温泉」がおすすめとのこと。アルカリ性の単純温泉が、たまりがちな角質を落とし、ゴワついた肌を柔らかくしてくれる。通販をはじめ、ナチュラルローソンなどでも取り扱っているから、早速取り入れてみては!
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【石井さんのおすすめ温泉】
静岡県 伊豆・奥下田 飲泉、自家源泉かけ流しの宿 観音温泉伊豆・奥下田の山中に湧く「観音温泉」は、pH9.5、硬度1.0未満の強アルカリ・超軟水のトロトロの肌触りの温泉。温泉成分「メタケイ酸」には「シリカ」が豊富に含まれ、髪や爪、肌にハリやツヤを与え、エイジングケアでも注目されている。山あいの広大な敷地内には湯量豊富な自家源泉が3本あり、四つの宿泊施設と2つの大浴場が。宿泊施設は源泉かけ流しの全室露天風呂付きの「ピグマリオン」、源泉かけ流しの展望檜風呂付きの「本館」、源泉かけ流しの庭園檜風呂付きの「正運館」、長期の滞在やペットと泊まれる部屋のある「離れ産土亭」など、旅の趣向や目的に合わせ部屋を選ぶことができる。
「超軟水で口あたりがまろやかな観音温泉は、内臓を整え、便秘の悩みもサポートすると言われています。私は、2Lのペットボトル2本を最初に湯船に入れて温め、それで顔を洗ったり、肌にかけたりしてから、残りのお湯を湯船に入れて温泉気分を味わっています」(石井さん)
飲む温泉 観音温泉 2L ¥410(1本) ケース¥2,376(6本入り)静岡県 伊豆・奥下田 飲泉、自家源泉かけ流しの宿 観音温泉
泉質:アルカリ性単純温泉
住所:静岡県下田市横川1092-1 ☏0120-01-9994 ☏0558-28-1234
料金:1泊2食付き¥11,150(産土亭)~30,000(ピグマリオン)~(2名1室利用)カード使用可
客室:55室 チェックイン15:00 チェックアウト10:00
Content Writing
Yuumi Fujii | 藤井優美
Beauty Editor
『ELLE』『Women’s Health』などの雑誌・WEBメディアでも執筆。美容系編集プロダクション「dis-moi(ディ・モア)」主宰。エステティシャンを経て、美容エディターになること25年以上。美容専門誌をはじめ、多くの女性誌で美容情報や女性のヘルス特集を手掛ける。年間、数多くの研究者、医師、美容家などの取材をこなす。