LIFESTYLE
「本当に好きなもの」を大切に。自分らしさを貫く、中島多羅さんの生き方
Reported by Saori Tsuchiya
2022.9.15
20代半ばまでヨーロッパに単身移住し、プロのバレリーナとして活動していた中島多羅さん。現在は拠点を日本に移し、モデル、女優として活躍の場を広げている。時にストイックに、時にゆるやかに、自分が心地いいと感じるバランスでナチュラル&サスティナブルなライフスタイルを実践。幼少の頃から続けてきたバレエが教えてくれたこと、自分自身で心身をメンテナンスする習慣など、今の中島さんが大切にしていることについて伺った。
バレエと海外生活が教えてくれた、自己メンテの大切さ
5歳からバレエを始め、20代半ばまで海外に身を置き、まさにバレエ漬けの生活を送ってきた中島さんは、「目標に向かって努力する。そこにいちばん喜びを感じるタイプです」とほほ笑む。その経験のなかから培ったフィジカル・メンタル両面でのセルフメンテナンス術について伺った。
■1:自分に合っているジャイロキネシスを10年以上継続中
一般的にバレリーナに求められる素質とは、線の美しさ、踊れる身体能力、体重の軽さ。身体的に極限のことを求められる舞踊であり、体に負荷がかかる動きも多く、その点において悩みは尽きなかったという。
「バレリーナ時代、わたしはケガがとても多かったんです。踊り方を変えなければいけない、と思って始めたのが、ジャイロキネシス。続けていくうちに体のコアの部分がしっかり安定し、それまでバラバラだったパーツがすべてシナプスでつながった感覚がありました。体を動かすのもラクになったし、ケガも減りました。今では継続10年以上、これから先も自分の体のメンテナンスとして続けていくだろうと思います」
■2:悩みや苦しみはため込まず、とにかく外に出す
プロのバレリーナとして常に高いレベルの要求に応える毎日。好きでやっていることとはいえ、「どうしてうまくいかないのだろう?」と落ち込むことも多かった。
「悩みを抱えたときは、自分の中にため込むのではなく、気持ちを外に出すようにしています。思い切り泣いたっていい。“つらい”という感情をとにかく感じ切ることが大事。どん底にぶつかるまで沈むと、“これ以上は落ち込まない”という安心感に変わる気がします。私の気持ちの立て直し方としては、これがいちばん効果的なのです」
■3:小さな幸せを拾い集めて、自分で自分のご機嫌取りを
長年、演者として人の視線を浴びてきた経験から、俯瞰で自分自身を見つめる癖がついている。「今の自分の状態は?」と客観視することで、意識をうまくコントロールし、いい精神状態を維持することに役立てている。
「生活の中のちょっとしたことに喜びを感じます。パッと時計を見たときに11時11分とかだったら、ラッキー! 自分だけの小さな喜びをいかにたくさん集められるか。そして、大なり小なり叶った夢を心に記録しておくことをわたしは大切にしたいです。ご機嫌な毎日は、自分自身で作るものだと思います」
■4:食はコミュニケーションツール。場を楽しむためにある。
過去にヴィーガン(完全菜食主義者。肉や魚だけでなく、卵、乳製品、はちみつなども口にしない)だったという中島さん。
「7年間くらいストイックにヴィーガンをやって、3年くらい前に卒業しました。今ではお肉も食べるし、外食も好き。食にはおいしいものを食べるという楽しみもあるけれど、それ以上に一緒に食べる人とつながるためのコミュニケーションツールとしての役割があると思っています。今のわたしにとっての食は、そこがいちばん重要。ヴィーガンのようにひとつのことを究極まで突き詰めてみたことで、いろんな異なる価値観を尊重できる自分がいます」
私の毎日を健やかにする「好き」のかけらたち
好奇心旺盛で、好きなことにとことんのめり込む中島さんの日常は、いとおしいもの、大切にしたいものであふれている。同時に、地球にも自分にもやさしくあろうとする物選びの哲学が垣間見える3つをご紹介。
リサイクル部品を使った愛車で、行動範囲をどんどん広げていく
コロナ禍がきっかけで乗り始めたという自転車。2年間乗っていた中古のトーキョーバイクの部品を再利用して、体のサイズに合わせたオンリーワンの一台を新たに作ったそう。
「天気がいい日はどこまでも自転車で行ってしまうほどハマっています。もともとフットワークは軽いほうですが、自転車のおかげでさらに軽くなった感じがします。自転車をこぐ時間は、エクササイズになるし、交通費も浮くし、頭の中が空っぽになってストレス解消にもなるからいいことずくめです」
ずっとこの先も長く受け継がれていくような服をまといたい
新しい自分に出会うためにも、いろんな服に袖を通すことを楽しんでいるそう。
「いつか着なくなったときも次の誰かに大切に譲るために、買うときはきちんと丁寧に作られたもの、長く着られるものかどうかを吟味しています。このドット柄のワンピースは、古着店で見つけました。縫製もしっかりしていて、丈を変えられる2WAY仕様。サイズ感もわたしにぴったり。そういう運命を感じる出合いも大切にしています。あとは、麻やオーガニックコットンなどの天然素材の服も好き。ヴィーガンだった頃に身につけるものの素材も意識するようになり、今もなるべく肌に心地いい天然素材を選ぶようにしています。もうひとつの衣装、スズキタカユキの白いオールインワンは、味わいのあるコットンリネン素材。お気に入りの一着です」
香りは自分自身を表すものとして、いつも身近に感じていたい
身につける香りは、香水はもちろん、シャンプーや洗剤も含めて天然香料のものを選ぶようにしているそう。また、お母さまがよくお香を炷いていたこともあり、中島さんにとってお香は安心感を取り戻すものでもあるのだとか。
「香りは自分のアイデンティティのひとつで、服をまとうように香りもまといたいと思って大事にしています。お香は、防虫剤代わりにクローゼットで炷くことも。香りが薄く服に移って、それが自分で心地いいのです」
新しい自分に出会うために、どんなときでも演じ続ける
今年1月、写真集『わたしとほし』を自費出版。コロナ禍で「今できることをやらなければ」という思いに駆られ、「演じたい」という熱量のすべてをこのプロジェクトに注ぎ込んだ。
「コンセプトを自ら考え、一緒にやってくれる仲間を募り、わたしは4人の少女を演じ分けて、写真の被写体となりました。装丁など何から何までこだわって作ったのですが、出来上がったものを見て、そこまで振り切ってよかったと思っています。だからこそ、面白がってくれる方がいっぱいいたし、この本をきっかけにご縁がつながって一緒にイベントやコラボが実現した方もいたのは本当にありがたいことでした」
本質的な美しさが宿るのは、目に見えないもの、空気感、リズム
演者としてバレリーナ、モデル、女優と変化していくなかで、目指す美しさの概念に違いはあるのかと聞くと、中島さんはこう応えてくれた。「バレリーナの頃は、バレエ的な美しさに自分を合わせていました。またわたしが活動させていただいたモデルのフィールドは、生き方やライフスタイル丸ごとで見て『そのままでいい』と肯定してくれました。さらに今いるお芝居の世界は、内面をむき出しにしてもなお、にじみ出るものが求められます。だから今、わたしが美しいと思うのは、人間性やその人がたどってきた道のりがたたずまいから感じられるような人です。感覚的なものに惹かれるんです」
中島さんは、自身の内側にある小さな思いや好奇心を自らの行動や努力で目に見える形にする人。そしてそれを発信することで、外側の世界にいる共鳴する人とどんどんつながっていく。色とりどりのいくつもの小さな輪は、やがて大きな美しい輪になって自分の元に返ってくる。さまざまな経験を経て今、感覚的なものに美しさを感じ惹かれるという中島さんの言葉に、演じる人としてこれからどういう姿を見せてくれるのか、期待を抱かずにはいられない。
Tara Nakashima | 中島多羅
Model, Actress
5歳よりバレエを始め、15歳で単身渡米。ヒューストンバレエの研修を経て、チェコ、クロアチアの国立劇場でソリストとして踊る。2016年より拠点を日本に移し、モデルとしての活動をスタート。絵本の翻訳、エッセーの執筆、ヴィーガン料理のレシピ開発など、幅広く活躍。
https://www.instagram.com/tarafuku333/
https://watashitohoshi.stores.jp
Photo: Aya Sunahara
Hair&Make: Mei Kimura
Content Writing
Saori Tsuchiya | 土谷沙織
Editor & Writer
美術大学でファッションを学んだのち、女性ファッション誌の編集者として出版社での勤務を経て、フリーランスに転向。ファッション、ヘアスタイル、料理、インテリア、アート、健康など、女性のライフスタイルを中心に執筆。著名人インタビューも多数手がける。30代半ばでヨーロッパに語学留学をしたことをきっかけに、現在も英会話レッスンを日課としている。趣味はウォーキング、山登り。