LIFESTYLE
模索しながら見つけた心地よいワーク&ライフスタイル
Reported by Yurico Yoshino
2021.10.15
働き方も働く場所も選択肢が広がり、自分らしい働き方を見つけている人が増えているこの頃。とはいえ多くの女性は、どうすれば妥協せずに仕事に取り組みながら、家事や育児、そして自分自身の趣味や交友関係も大切にする暮らしがかなうのか、日々悩んだり迷ったりしているはず。
そんななか、私たちと同じように試行錯誤しながらも、自分も周囲も我慢しないワークとライフのあり方を見つけている方にインタビュー。まねできるところ、参考になる考え方がきっと見つかるはず。
その1・ベンチャー企業で働く2児の母、松本 藍さんの場合。
育児で知った「人の成長を応援する仕事」の魅力
6歳と4歳、2人の娘さんをもつ松本 藍さんは、1年半前にベンチャー企業「ラクスル」に転職し、CCO(Chief Culture Officer)として、社内のコミュニケーションや組織の課題解決、採用、コーポレート広報などに携わっている。
20代はコンサルタントとしてバリバリ活躍していたが、同時に将来の働き方に不安を抱えていたという。「コンサルタントは、とにかく多忙。若いうちにたくさん経験を積んでたくさん稼ぐというのが当然の価値観でした。私自身も仕事は大好きで、第一線で働くことにやりがいを感じていましたが、一方で、“こんなライフスタイルで、いつか子育てできる? 育休なんて取れる?”という不安はありました」
答えの見えないまま妊娠、出産。復帰後は時間の制約もあり、人事部に異動になったが、これが転機になったという。「正直言って最初は、よく知りもしないくせに“最前線に立てないなんて……”という悔しい気持ちがありました。ところが実際やってみると、人の相談にのったり、人が成長していく姿を支えることに適性を感じたんです。これ、私が今までもやっていたことだったな、と」。母になり、“人の成長を応援する”ことの喜びを知ったことも大きい、と松本さんは分析する。
人材育成に魅力を感じ、一人ひとりの成長が会社のビジョンにつながるような事業会社で働きたいと考えていたところ、縁あって35歳で現在の会社に転職。「育児だけでてんやわんやだったので、転職は娘の中学受験が終わった頃かな、という思いもあったけれど、35歳ってキャリア的に脂の乗っている時期。先延ばしにせず、今チャレンジすべきだと飛び込みました」
「自分の時間」「仕事の時間」「子供の時間」「夫婦の時間」の切り替え術
コロナ禍の今は週1〜2日しか出社していないものの、在宅の日でもオンとオフのメリハリをつけ、シェアオフィスで仕事をしているという。4歳と6歳の2人の娘さんは、保育園通い。一日のライフスタイルを聞いた。
「朝5時過ぎに起きて、みんなが起きてくる7時頃までは自分の時間。家事をしながら英語の勉強をしたり、一日の計画を立てたり。保育園の登園はパパが担当することが多いので、家の片付けをしたら9時から18時はみっちり勤務時間です。その後お迎えから22時頃までは子供タイム。ご飯やお風呂のお世話をしたり、一緒に遊んだり。子供たちを寝かせてから夫婦の時間で、お酒を飲むこともあればそれぞれやり残した仕事に取り掛かることもあります。そして土日はまるまる子供の時間。土曜は子供のお稽古ごとの送迎リレー、日曜は無心で遊びます(笑)」
「まあいつもうまくいくわけではないですが」と笑いながらも、自分の時間・仕事の時間・子供の時間・夫婦の時間をすみ分けることで自分にも周囲にも無理をさせていない工夫が伝わる。
一人で全部はこなせないから、思い切りよく「頼る力」が鍵
もうひとつ、松本さんが心地よく暮らせている秘訣は“全部を自分でやろうとしないこと”。「毎週木曜の夜は3時間、シッターさんを頼んでいます。子供のお迎えと晩ご飯やお風呂の世話、そして時間まで遊んでいてもらいます。その間に私は美容院や整体に行ったり、ママ友との集まりに行ったり、パパとデートすることもあるし、仕事に使うこともあります」。このスタイルは、次女を出産するときに友人に勧められたという。「最初はぜいたくかなとか、かわいそうかなという思いもよぎったものの、やってみると自分のこともちゃんとできるし、ストレスもたまらない。子供たちもシッターさんのことが大好きだし、週1回の非日常が楽しいようです」。さらに月曜の夜はパパが育児担当なので、実際に融通が効かないのは週3日だけだという。「その都度パパやシッターさんとスケジュール調整をするのは結構面倒で、自分が我慢すればいいと諦めがちだと思うのですが、このスタイルを取り入れてから本当に精神的に楽になりました」
さらに松本さんは週1回、晩ご飯の「作り置きサービス」も頼んでいる。「本当に助かっています。といっても最初は抵抗がありました。私の母は専業主婦だったので、母みたいにできないことに悩んだりもしました。夫だって“簡単なものでいい”と言っているのに、勝手に頑張って、それでいて子供が残すと腹が立つ。いちばんの敵は自分だと気づいて、今は人に頼るべきところは思い切って頼って、その分自分ができることをしっかりやる、ということを大事にしています」
休日のzoomで「ワーママ&ワーパパのサバイバル」本をママ友と執筆中!
出産前はトライアスロンにハマったり、同世代の女性のコミュニティを作り、朝活イベントを開催するなどしていた松本さん。今は趣味の時間をどうやって捻出しているのだろう。「トライアスロンはひと休みしていますが、マンションにジムがあるので、隙間時間で運動は続けています。朝活はできないけれど、今はママ友5人で、それぞれが経験した仕事術や育児のノウハウをまとめて“ワーママ&ワーパパのためのサバイバル術”の本を出版しようと計画中で、毎週末オンラインミーティングを開いています。時間の使い方や優先順位は変わったけれど、何かやりたいと思ったとき、少し発想を変えれば、方法は必ずある。今悩んでいるママたちにも、それを伝えられたらと思っています」
Ai Matsumoto | 松本 藍
東京都出身。東京大学大学院卒業後、コンサルティングファームのモニターグループ(現デロイトトーマツ)、リヴァンプを経て2020年よりラクスルに入社、CCOを務め、自社のSNSの発信者として男性の育児参加をはじめ新しい働き方に関する情報発信も行う。プライベートでは4歳と6歳の女の子の母。現在ママ友5人でワーママ&ワーパパのサバイバル術をテーマにした書籍を執筆中。
Photo: Midori Yamashita
その2・港区から鎌倉へ移住した起業家、白木夏子さんの場合。
その2・港区から鎌倉へ移住した起業家、白木夏子さんの場合。
経営者、プロデューサー、講師……多彩な顔で働く2児の母
エシカルジュエリーの先駆ブランド「HASUNA」のファウンダー&CEOを務める白木夏子さん(40歳)は、会社経営をしながら、さまざまな企業のプロダクトやブランドのブランディングプロデューサーを務め、大学や自治体では起業教育に携わっているほか、講演やインタビューにも引っ張りだこ。今春からはVoicyパーソナリティとして毎日声での発信を行うなど、幅広く活躍している。加えて9歳と0歳の2人の女の子の母でもあり、一体どうやって時間をやりくりしているのか不思議なほどだ。
コロナ禍を機に、都会生活から鎌倉ライフへ!
そんな白木さんは、次女が生まれる半年前、2020年の秋に鎌倉に移住したことで、ライフスタイルが大きく変わったという。
「きっかけはコロナです。昨春の最初の緊急事態宣言で、長女の学校も休校になったので、愛知の田舎にある実家に身を寄せて、私だけ週1、2回都内に出て仕事をする生活をしていました。娘はもともと自然が大好きだったのですが、そこで私も娘も本当にのびのびと過ごせたんです。コロナ禍で多くの仕事がリモートでもできる体制が整ってきたので、東京を離れて暮らすのもいいかなと考え始めました」。週に数度は東京での仕事も必要なため、それほど通勤に無理がなく、自然も文化もあるところと考え、鎌倉を視野に入れて物件を見に行ったその日に出合ったのが今の家だ。
鎌倉移住で、寝る時間まで、ライフスタイルが激変!
引っ越して、暮らしはどう変わったのだろう。「生活スタイルがすっかり健康的になりました。それまではオフィスにも近く、夜の会食があってもすぐに帰れるようにと、ずっと青山周辺で暮らし、常に騒がしい生活だったんです。それが鎌倉では19時にはもう辺りは真っ暗なので、22時過ぎには寝てしまうようになりました(笑)」
外食もすっかり減ったという。「鎌倉野菜をはじめ、食材が新鮮でおいしいし、安いんですよ。だから外で食べるより家で食べたくなって」。週末は近所の海や山で過ごしたり、少し足を延ばしてキャンプに出かけたりと、自然を楽しむ時間が増えたという。
マーブル状に混じり合うオンとオフは、「互いが気分転換の役割」
今はまだ次女が保育園に入っておらず、育児をしながらの在宅ワークが中心。「商談や社員とのミーティングも講師の仕事もリモートが多いのですが、週に2、3回は東京に足を運んでいます。湘南新宿ラインで1時間20分くらい。グリーン車に乗れば仕事を片付けたり、Voicyを聴いたりと時間の有効活用もできるので、あまり不便は感じませんね」と白木さん。
とはいえ0歳のお子さんの育児との両立は、なかなか大変そう。「今回は幸い体調がよかったので、スムーズに復帰できました。また今では長く勤めている社員も多く、任せられることも増えましたし、育児中の社員も多いので、皆に理解と協力をしてもらいつつ仕事をできていて感謝しています。夫も在宅勤務の日もあるので、交互に子供の世話をしながら仕事をしています」
オンとオフは全くすみ分けておらず、「混沌としている」と白木さん。「都心に出ている日は100%仕事ですが、リモートワークのときは境目がありません。赤ちゃんが泣けばミルクや抱っこが必要だし、仕事が一段落すればお散歩に連れていって、ついでに食材を買いに行ったり。夜は子供を寝かしつけながら、教員をしている大学の学生とメンタリングをしたり。でも育児と仕事の両方あることで、お互いの気分転換になっていると思います」
ワーママライフを支えるのは、気が置けない友人と「ホットクック」⁉︎
東京にいた頃は家事代行やシッターさんの力を借りていたけれど、鎌倉ではアウトソーシングサービスが少ないこともあり、全て自分で行っているという。そんなとき頼りになるのが、食材と調味料を入れれば勝手に料理を作ってくれる(?)「ヘルシオ ホットクック」という調理器具。「これひとつあれば料理はお任せです(笑)」
友達と喋りたいときは、家に来てもらったり、オンラインでおしゃべりをしたり。「行き詰まったときは友人や夫に話します。くだらない相談や愚痴を聞いてくれる友人は本当に大事。ただ愚痴を聞いてほしいときは“今日はアドバイスいらないから、ただ聞いてて”とお願いします(笑)」
今はスケジュールを詰め込みすぎないようにしているという白木さん。「本当はもっと仕事がしたい! 1、2カ月に1度は行っていた海外出張もなく、好きに動けないので悶々としています。来年の4月に次女が保育園に入る予定なので、そうしたら2倍は仕事できるだろうな、と楽しみにしていますが、この状況をストレスとして捉えず、“今は子供と過ごす時期だ”と思うようにしています」
仕事だけでなく、学びへの欲求も高まっているという。「経営やサステナビリティ、アートなど、経営者として、ブランドプロデューサーとして、知識をアップデートしたい分野がたくさんあります。大学院か社会人コースか、まだ検討中ですが、この先長く働き続けるためにももう一度体系的に学ぶ時間を取りたいと思います」
毎日の「一人風呂」「ヨガ」「日記」で、一日をリセット
多忙な生活でも、疲労やストレスをためずに常にポジティブでいられるのは、毎日のルーティンのおかげ。自分に戻れる時間を必ずもつようにしているのだという。「お風呂にひとりで浸かること。ヨガをすること。日記をつけること。短時間でもこの時間があればリセットできるんです。もやもやした感情をそのままにすると睡眠の質が悪くなるし、翌日の効率が落ちて悪循環になります。もやもやは文章化して、紙に吐き出し、次の日に持ち越さないよう心がけています」
コロナ禍、鎌倉移住、出産と育児と、ワークもライフも大きくスタイルが変化したこの1年。目の前の状況の“よいところ”に目を向けながら、無理のない折り合いをつけていく、その上手な着地がパワーの秘訣のようです。
Natsuko Shiraki | 白木夏子
愛知県出身。HASUNAファウンダー&CEO、ブランドプロデューサー・ディレクター。武蔵野大学アントレプレナーシップ学部教員・研究所客員研究員。名古屋女性スタートアップラボ講師。ロンドン大学卒業後、国際機関、投資ファンドを経て2009年にHASUNA設立。2021年4月よりVoicyのパーソナリティを務める。プライベートでは9歳と0歳の女の子の母。
Editor’s Note取材メモ
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松本さん「優先順位をつけて効率的に物事を回す」
「と言いながら、割り込んでくるものはたくさんあるけれど……」と言いつつ、こう答えてくれた松本さん。「家事も育児も仕事も、全てを完璧にすることはできないし、キリがない。許された時間の中で何を優先するかを見極めて、こぼれたものにとらわれないようにしています」
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白木さん「新鮮な食材で、なるべく健康に気を使ったものを作って食べること」
「日常の中でこだわっているのは、やはり食事かなあと思います」と白木さん。鎌倉に引っ越してから、いっそうその思いは強くなったそう。「次女の産後の体調が思いがけずよかったのも、健康に配慮するようになったことが一因かも、と。身体も心も、おいしくて健康的な食事から作られると感じています」
Content Writing
Yurico Yoshino | 吉野ユリ子
Lifestyle Journalist
企画制作会社、アシェット婦人画報社(現ハースト・デジタル・ジャパン)などを経て2008年よりフリー。女性誌や書籍、広告、WEBを中心に、女性のための豊かなライフスタイルの提案を行う。プライベートでは、5歳になる娘を出産する以前はトライアスロンが趣味で、アイアンマンを3度完走。日課はヨガ、瞑想、朗読、物件探し。