INTERIOR
機能性とともに重視したい、椅子やソファ選びのポイント
Reported by Sanae Sato
2021.11.15
仕事をしたり、食事をしたり、くつろいだり。人類史上、これまでになく座っている時間が増えた現代の私たち。ステイホーム、リモートワークによって、このところそれがさらに加速している。どんな椅子やソファで過ごせば、快適に過ごせて豊かな気持ちになれるだろう? お話を伺ったのは、雑誌や広告、店舗のディスプレイなどを手がけ、海外のデザイン事情にも精通する人気のインテリアスタイリスト、中田由美さん。機能性とともに重視したい、椅子やソファを選ぶときのポイントについて、彼女ならではの視点を教えてくれた。
空間に合うボリューム感の家具を選ぶ
椅子やソファといってもさまざまな種類があり、いざ選ぶとなると迷ってしまう。好みのデザインや部屋のテイストに合うか、座り心地、ソファに関しては内部の構造も重要なポイントとなるはず。
「椅子をはじめとした家具を選ぶときに、まず考えるのは空間に対するボリューム感。その場所に置かれたときに違和感を感じないということは、心地よさに繋がるスタートラインのような気がしています。そういうと見た目だけを気にしているように思われるかもしれませんが、サイズ感というのも空間に作用する機能のひとつ。個人的にはとても重要だと思っています」と中田さん。どの部屋でどんな風に過ごしたいか、自宅の空間と家具のボリューム感を想像しながら、ワークスペース、ダイニング、リビング、そしてガーデン&テラスのシーン別に中田さんのおすすめアイテムを見ながらイメージをふくらませよう。
【WORK SPACE】
家のインテリアに馴染む、機能的なワークチェア
自宅で仕事をすることが増え、長時間の作業にはやはりエルゴノミックなチェアが必要だと痛感した人も多いのでは? ワークチェアにきちんとした姿勢で座ることで、腰痛や肩こりなどのトラブルも軽減されるはず。しかし本格的なワークチェアは家のインテリアの中で浮いた存在になってしまうのも悩ましいところ。「ワークチェアは人間工学に基づいたものばかりで、機能はどれも素晴らしい。座り心地は好みと過ごし方にもよるため、ベストは人それぞれ異なります。家の中で使うなら、ほかの家具とテンションが合うものを選びたい。背の高さや素材に注目してみてください」と中田さん。
スッキリとしたデザインと機能性を両立
「根をつめて仕事をしている合間にちょっと一息つきたいときに、ハイバック&アームはとっても助けになります。長年愛されているフリッツ・ハンセンの<オックスフォード>はスッキリしたデザインなのでハイバックでも重くならず、美しく空間に馴染みます」。アルネ・ヤコブセンが大学教授用にデザインしたチェアがこの秋リニューアル。ミニマルかつクラフツマンシップを感じるオリジナルのフォルムを踏襲しつつ腰部のサポートを改良、座り心地もより快適に進化した。ベースの種類やカラーバリエーションも充実。
人間工学を元に生まれた本格ワークチェア
「本格的なワークチェアを家で使うなら、軽やかなメッシュタイプがおすすめです。ヴィトラの<フィジックス>は、横から見たときにシートが薄めであること、アームや脚のデザインがすっきりシャープであること、シートとフレームのカラーのトーンが近いことで、ワークチェアでも軽やかな印象に。程よい存在感で、ほかの家具と調和が取りやすいはず」。数々のオフィスチェアを手がけるアルベルト・メダによるデザインで、最先端術を用いて人間工学的に必要とされる機能を全て備えている。
自然と正しい着座姿勢に導くメカニズム
「シートと背のファブリックは28色、フレームは4色、脚の形状も3種類の中から選べるので、使う環境によって選ぶ楽しみのあるワークチェア。高さ77.5cm〜とほかのチェアと比べて背が低いのですが、背のクッションが心地よく姿勢をサポートしますし、コンパクトな空間にも、圧迫感なく馴染んでくれるサイズ感かと思います」と中田さんが言うのは、柴田文江さんがデザインしたイトーキの<バーテブラゼロサン>。自然と正しい着座姿勢に導くメカニズムを持ち、素材やカラーバリエーションも豊富で、家のインテリアに馴染むワークチェアとして大人気を博している。
【DINING】
個性を発揮したいダイニングチェア
「ダイニングのチェアは、多彩な種類から好みのデザインで個性を発揮したいところ。加えて、テーブルとの相性も大切です。背もたれとテーブルの天板の見え方、丸いテーブルの場合は天板のカーブに収まりがよいかなどもチェックしたいポイント」。中田さん自身は直径120cmのどっしりした丸い天板のダイニングテーブルを使っていて、チェアは細めのラインのものを中心に好きなデザインのものをバラバラに置いているのだそう。セットでなくても、好きなものを一脚ずつ組み合わせるというのも素敵なアイディア。
アーム付きのチェアでゆったり過ごす
デンマークのノーム・アーキテクツによる<N-SC01>。「身体を包み込むような背もたれとアームで、ゆったりと食事を楽しめる一脚」。北海道や秋田のナラ材など資材の管理から製造まで自社で一貫しているカリモク家具の強みを活かし、使いづらくなった小さな材料もひと手間かけて、素材を無駄なく使っているという。北欧デザインと日本の職人の技術が融合した一脚。
彫刻的なフォルムの木製チェア
「この秋にカール・ハンセン&サンから復刻された<OW58 Tチェア>は、ひじ掛けなしでスッキリと見せつつ個性的なデザイン。デンマークのデザイナー、オーレ・ヴァンシャーの彫刻的なフォルムが美しい。毎日椅子を引くときに触れる、背もたれの柔らかくなめらかな感覚も心地よいはず」。ウォルナット材のパーツを接合し、流れるようになめらかに仕上げるには、熟練の職人による高い技術が求められる。
モダンな印象のカンチレバー
「カンチレバー式(片持ち構造)の<D41 アームチェア>は、アームとひと続きになった軽やかなレッグが、宙に浮くような座り心地とともに、モダンな印象を与えてくれるデザイン」テクタは’20年代のバウハウスのデザイン哲学を継承するドイツの歴史あるブランド。マルセル・ブロイヤーやミース・ファン・デル・ローエ、ヴァルター・グロピウスなどがデザインした、バウハウスを代表する数々の名作家具を復刻している。
【LIVING】
ソファ選びは、リビングでの過ごし方を考えることから
「ソファはあまり動かすこともないので、リビングでソファがどういう存在でいてほしいのか、どう過ごしたいのか、というゴールを設定することは、ソファ選びを楽しくするひとつの方法です」。中田さん自身も今まさに、ソファを探しているところなのだそう。リビングの主役としてインテリアのイメージを大きく左右するとともに、家族が集まりくつろぐ場所となるソファ。彼女が言うように自宅のリビングにこのソファがあったらこんな風に過ごせるな、と想像するだけでもワクワクする3選。
高さを抑えた設計が、空間に広がりをもたらす
「建築家の芦沢啓治さんがデザインしたソファ<A-S01>は、高さを抑えた設計が空間に広がりをもたらします。普通のソファに比べて格段に柔らかなアームはピロー代わりにもなり、デイベッド的にゴロンと横になって身を委ねることもできる。こちらはデンマークのテキスタイルブランド、クヴァドラのファブリックが張られた心地よい肌触り。ファブリックが生む柔らかな印象は、合わせるスタイルを問わない汎用性の高さがあります」
カリモクケーススタディは“空間から考える家具”というコンセプトのもと、建築家と共にデザインした家具を提案するコレクション。豊かな素材感をもつタイムレスなデザインが特徴だ。
“雲の上の座り心地”を味わえる、モジュールソファコレクション
「ピエール・ポランが1975年にデザインしたソファ<パチャ>コレクションが、デンマークで名作家具の復刻に力を入れるグビから復刻。ふんわりと柔らかなフォルムのソファは、シングルでラウンジチェアとしても、連結して大きなソファとしても使える点も魅力です」シートの高さは37センチで低めの設計。発表された1975年当時は斬新とされた低めのシートは日本の暮らしにもぴったり。
アイランド型ソファに再び注目!
フェザークッションを採用し、柔らかな座り心地のリビングディバーニの<エクストラソフト>。「ブロックを組み合わせるように、空間に合わせて自由にソファの形を作れる<エクストラソフト>は、モジュールソファの先駆け。座る方向を決めずにリビングの中央に置いて全方位からアクセスできるアイランド型のソファに、家で過ごす時間が増えた今、改めて注目しています」。ブランド名の“ディバーニ”とは、イタリア語でソファという意味。その名の通りソファ類が充実したメーカーで、なかでも<エクストラソフト>はブランドを象徴するアイコニックなモデルだ。
【GARDEN & TERRACE】
置く場所に合わせて素材と機能を選ぶ
ガーデンやベランダで過ごす時間を豊かにしてくれるアウトドアファニチャー。日差しや風雨に対する強さなど、インドアとは違った条件も求められる。「天然素材、人工ラタンやアルミなど、置く場所の環境を考慮して素材の特性から方向性を絞り込むのもいいでしょう。日本の住環境に合わせたコンパクトなデザインも増え、近頃は選択肢が格段に広がっています」
経年変化も楽しめるナチュラルウッド
ボーエ・モーエンセンが’60年代後半に発表したダイニングチェア<BM4570>とデッキチェア<BM5568>。チーク材と耐候性に優れたファブリックを組み合わせたシンプルなデザインは、共に折りたたみができる点もポイント。「チーク材は油分を豊富に含むため防腐効果が高く、屋外家具によく使われる木材です。インダストリアルになりがちなテラスの素材ですが、木の温かみが加わることでリラックスムードが高まりそう。経年でチークの色が次第にシルバーグレーに変色しますが、この変化もあえて楽しみたい」
カラフルでタフな人工ラタン
杉田エースで展開するアウトドアファニチャーブランド、パティオ・プティの新作<ワ・シリーズ>。「マンションのベランダでもテーブルとチェアが置けるよう設計されたコンパクトさが魅力。軽量でスタッキングもでき、ざっくりと大きめに編まれたポリエチレン製の人工ラタンが軽やか。人工ラタンは比較的お手入れが簡単で、変色や腐食しにくい素材。屋外はもちろん、屋内でも使用できます」
軽くて錆びにくいアルミ製
パリのチュイルリー公園などでも使われている、フランスのアウトドアファニチャーブランド、フェルモブの家具。「アルミ製はステンレス以上に錆びにくいといわれる材質で、ほかの金属より軽量で取り扱いが楽に行えます。フェルモブのこちらのシリーズは、絶妙なカラーが揃う24色展開。インドアとアウトドアは別々に考えがちですが、屋内と屋外を繋げるイメージで色を意識して選んでみるのも空間にまとまりを作る一つの手」
「椅子やソファは大きな買い物でもあるし、長く付き合うものだからショールームやショップで詳しい説明を聞きながら、実物に触れて、座り心地を試してみるのがいちばん」と中田さん。チェアやソファは、一生ものどころか次世代が受け継ぐこともできるもの。メンテナンスや経年変化も楽しみながら、大切に使いたい。そして長く使うものだからこそ、見るたび、座るたびによさを実感できるお気に入りを見つけよう。
Yumi Nakata | 中田由美
インテリアスタイリスト。建築を学んだ後、舞台照明のデザイン、プログラマーを経て、スタイリストに。雑誌、広告、CMのスタイリングを中心に、イベントの展示構成やウインドウディスプレイなど空間やモノにまつわることを手がける。
https://cargocollective.com/yuminakata
instagram:@yumi909
Photo: Shuhei Shine(karimoku)
Editor’s Note取材メモ
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新居のインテリアを絶賛スタイリング中
最近引っ越しをしたという中田さん。仕事の合間を縫って、新居のインテリア選びも進めているとのこと。「ダイニングテーブルをはじめ、大きな家具は木製のものが多くなってきたので、チェアや小物で軽やかに色を入れたいと思っています。ダイニングにいる時間が長いので、リビングは軽めでレイアウトの自由の効くソファやテーブルを。また、窓際にいるのが好きなので、背がなく窓際に置けるデイベッドが欲しいんです」とウィッシュリストを教えてくれた。プロがプライベートで選ぶもの、気になります。
Content Writing
Sanae Sato | 佐藤早苗
Editor
編集ライター。現ハースト婦人画報社に約9年勤務、『エル・デコ』ほかの編集に携わる。その後ワイデン+ケネディ トウキョウにてPRを担当。現在はフリーランスとして、ライフスタイルやデザインを軸に活動する。
https://sanaesato.com/