INTERIOR
グリーンでエナジーチャージ! 植物と楽しく暮らそう
Reported by Ayumi Machida
2021.5.13
「大自然の中で育ったので、子どもの頃から“植物”という寡黙で小さな命がかわいくて仕方なかった」という造園家の齊藤太一さん。「SOLSO FARM」や「SOLSO PARK」などグリーンをそろえたいくつものショップ運営のほか、オフィスやホテルなどの植栽、公園や公共施設のランドスケープ、さらに都市の緑化計画のコンサルティングまで、そのフィールドはどんどん広がっている。「グリーンを仕事にする一番の目的は、世の中に少しでもグリーンを増やしていきたいから。自然と関わることの大切さを、小さなプランターからでも感じてもらいたい」。コロナ禍でますます恋しくなったグリーンとの付き合い方について、お話を伺った。
都会ならではの“新自然”をもっと豊かにしたい
「植物の魅力は成長するものの美しさ」という齊藤さんは、もちろん切り花も大好きだが、大地に根付いて成長していく植物に、つい人生を重ね合わせてしまうのだという。
「地面があって、根っこがあって、幹と枝を伸ばして、花を咲かせて、そして次の世代につなげていくという生命の循環が、なんだか人生と似ているような気がして共感してしまう。僕はフランク・ロイド・ライトの建築にとても影響を受けているのですが、もちろん建築そのものも見事ながら、周りの自然や植物と融合しているところがすばらしい。これからは自然と人間が作るものとのバランスが大事。それが未来を良くするポイントだと考えています」
「ビルが立ち並び、道路が張り巡らされている都会には、当たり前ですが昔ながらの豊かな大自然はありません。地形も景観も気候も特殊な都会だからこそ、そこに命を吹き込んでいきたい。小さなリビングに置くグリーンとか、ベランダの鉢植えで成長するグリーン、子どもたちが遊ぶ公園のグリーンなど、都会の中で生きているグリーンの大切さやすばらしさを追求していくのが僕たちの仕事だと思っています」。その小さいながらも尊い自然を、齊藤さんは“新自然”と呼ぶ。それは、都会で暮らす人々にとってかけがえのないエネルギーだ。
ライフスタイルをもっと楽しくするユニークなグリーンの選び方
コロナ禍による自粛生活で、部屋に観葉植物を置いたりベランダで菜園を始めたりと、以前よりグリーンに対する興味は高まっている。でもいざ買おうとすると何がいいか迷ってしまうのも事実。ショップを訪れてインテリアやガーデンのグリーンについて相談するお客さまに対して、齊藤さんはいったいどんなアドバイスをしているのだろうか。
「まずその方の趣味とかライフスタイルを聞いてみます。読書が好きなら読書スペースに置く落ち着いた香りのグリーンを探すし、料理が好きなら料理に使えるハーブをすてきに植える方法を考えます。和食が得意ならハッカやシソ、お茶が好きな方にはレモンバームなどもいいですね。洋服が好きな方にはコットンを育ててみたら?と提案したいです。もちろんそれで服は作れないけれど、実がはじけて中から白い綿花が出てきたら『これが生地になるんだ』と改めて感動したりするかもしれない。スポーツ選手だったら、ツヤがあって、みずみずしくて、葉が上に向かって伸びていくような“勝てるオーラ”のある植物をお薦めします。自分が本当に好きなもの、大切なものに関係していると、植物と一緒に生活することがより楽しくなるんです」
大切なのは、何を買うかではなくどう一緒に楽しく暮らすか
インドアグリーンが注目され始めたのは、およそ20年前。観葉植物ブームのときには、「今、この品種がおしゃれ!」というように、まるでファッションアイテムのように語られていたグリーンだが、今は“どうしたら一緒に楽しく暮らせるか”がテーマだと齊藤さんは言う。
「今はなんでもWebで調べられるから、僕らより知識のある人はたくさんいるんです。そして今は皆さん、自分が好きなものをしっかりわかっていらっしゃる。人気の品種はこれとか、部屋のどこに置くといいとか、そういうHOW TOを僕らがおすすめする時代じゃない。グリーンを物として紹介するのではなく、パートナーとして一緒に楽しく暮らすためのよりよいアイデアを提案したいと思っています」
育て方についても、あえて詳しく説明しないようにしているという。「水やりをどうするか、どのくらい日に当てるのがいいか、ぜひ自分で調べてみてください。植物と関わるということは自分の人生を豊かにするということ。受け身にならず、自分で調べて、考えて、試してみて、失敗もしながらも正解を探し出すという生き方のほうが楽しいのではないでしょうか。それは結果的にサステナビリティの考え方にもつながるような気がしています。積極的に植物のことを考えて実践することは、地球を助けることにもつながるはず」
植物と共に生きていくことで都会の自然が変わる
購入後のお客さまと連絡を取り合っていると、みんな悩みながらも発見をして、どんどんハマっていく様子がわかるという。「水やりというルーティンができたおかげでマメに天気予報をチェックするようになりました」「植物の様子が気になって早起きになりました」「東京の春ってこんなに気持ちよかったんですね」……etc.。植物のささやかな変化や反応に心を配ると、さまざまな発見に出合い、毎日が楽しくなる。
「水やりしなきゃ、お手入れしなきゃ、と思ったらつらくなってしまう。たとえば愛犬がそろそろおなかをすかせているなとなんとなくわかるのは、一緒に生活してお互いわかり合っているから。植物だって“管理する”とか“育てる”のではなく、“ゆるやかに、共に生きていく”。そういう感覚を持った人が増えれば、新しい自然が生まれていくのではないでしょうか。そして小さな自然が集まれば、きっといつか大きな自然に変わっていくと思います」
Taichi Saito | 齊藤太一
Landscape Architect
SOLSO代表、造園家。岩手県出身。高校卒業後、東京・青山のフラワーショップに勤務し、グリーンを担当する。2011年、株式会社DAISHIZENを設立し、「SOLSO FARM」や「SOLSO PARK」「BIOTOP NURSERIES」などのグリーンショップを運営するほか、個人宅や店舗、商業施設、レストラン、ホテルなどの多くの空間のグリーンコーディネートを手がける。最近手がけたランドスケープは、「白井屋ホテル」(群馬県)、「NEWoMan Yokohama」(神奈川県)、「TOKYO MIDORI LABO.」(東京都)など。
https://solso.jp
Photo: Zenharu Tanakamaru
Editor’s Note取材メモ
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一番のセルフケアは、やっぱりグリーン! 体を整えるのにサウナもおすすめ
都内ではあるが、自宅は自然に恵まれていて、現在4カ所あるオフィスはどこももちろんグリーンがいっぱい。週末は家族で山中湖に行き、そこでまたグリーンに浸る。「ずっとグリーンを浴びているので、あまりストレスを感じたことがない」と言う齊藤さん。「皆さんが癒やされるためのスペースを作っているので、僕自身が癒やされたいと思うことはあまりないですね。いや、癒やされるという感覚自体、もう忘れているかも(笑)。“癒やされたい”と思うのは、何かしら無理をしている証拠です。そんなときグリーンは本当にエネルギーを与えてくれる。僕は無理しない生き方を自然から学びました。どんな哲学より、自然は優れていると思う」
そんな齊藤さんがいまハマっているのがサウナ。オフィスにも自宅にもサウナを設置した。「『SAVOTTA』や『MORZH』など人気のサウナをいくつか買って楽しんでいます。サウナは自然を感じるすてきな時間です」
Content Writing
Ayumi Machida | 町田あゆみ
Editor
マガジンハウスで『Hanako』『Olive』『BRUTUS』『GINZA』編集部を経て、フリーランスに。『ELLE JAPON』でコントリビューティング エディターを務めるほか、ファッション、ライフスタイル分野で雑誌、書籍、WEB、広告の企画・編集やコンサルティングなどを手がける。犬と器と旅と韓ドラが好き。『エル・デジタル』で不定期に行われている「韓ドラあるある座談会」のメンバー。