FOOD
日本酒のことをもっと知りたい! おいしく健康的に、夏のお酒と器を楽しむ
Reported by Kaori Ezawa
2022.8.16
まだまだ知らない日本酒のこと。美容や健康にも良さそうと聞くけれど、果たしてどんな効果があるのだろうか? 管理栄養士の浅野まみこ先生に伺った。そして、今だから飲みたい、この季節ならではのおいしい日本酒について、人気酒販店「いまでや」の白土暁子さんがおすすめをセレクト。お酒に合わせる料理はもちろん、素敵な器も紹介。自宅でゆるゆる楽しんでも、夏のホームパーティーや贈り物にも!
日本酒の美容と健康の効果について
今回お話を伺ったのは、(株)エビータ代表取締役、管理栄養士でフードプロデューサーの浅野先生。先生自身も日本酒は大好きとのことで、普段から家飲みすることも多いそう。最近ハマっているのは手作りの燻製つまみだそうで、夏はキンキンに冷やした日本酒を合わせて楽しんでいるのだとか。ワインの代わりに微発泡系の日本酒を選んでみたり、和食だけでなく肉料理にも合わせたりして楽しんでいるという上級者。
「でも日本酒が好き過ぎて、毎日たくさん飲んでいたら太ってしまったことがあるので、飲み過ぎには注意ですよ」とリアルな一言も。
さて、日本酒の健康効果に関して、知っておきたい注目すべき成分は次の2つ。
■高血圧への効果に期待のペプチド
酒粕由来のペプチド(タンパク質が分解されてアミノ酸が2つ以上つながったもの)には、血圧上昇を抑制する効果があると期待され、高血圧や糖尿病予防として注目されている。A C E(アンジオテンシン変換酵素)の活性を阻害する働き以外にも、体質改善のような働きも期待される。
■老化防止にはフェルラ酸(麹菌由来フェルラ酸エステラーゼ)
バニリン、バニリン酸の前駆物質で、ポリフェノールの一種。植物に広く存在している成 分だが、日本酒の麹菌にも含まれている。酸化ストレスを抑える働き(抗酸化作用)、抗炎症作用をもつ。酸化は、肌の老化だけではなく、生活習慣病などの血管疾患にも関わるため、肌ケア、生活習慣病予防に(最終的には)効果が期待できる。また、麴菌の一部には認知機能低下を緩和させるとの報告があり、認知症予防の効果も期待されている。
そして美容面で特に注目されるのは、化粧品などにも使われていることでよく知られるコウジ酸だ。
■美肌の味方! コウジ酸
日本酒を造る際の、麹の発酵過程で生成される成分のひとつ。コウジ酸には、シミやそばかすの原因となるメラニンの生成(紫外線などの影響でチロシナーゼが活性化され、体細胞にあるアミノ酸系物質をシミに変換する)を抑制する酵素の働きがあり、美白、美肌に効果があるといわれる。ただし、市販の日本酒の中にはほぼ含まれず、麹の甘酒や酒粕などのほうがより効果を期待できる。糖化による肌の黄ぐすみへの効果、抗糖化作用(A G Esを抑える働き)も注目されている。
「このように期待できる栄養素が含まれる日本酒ですが、アルコール度数の比較的高いお酒(15〜16%ほどが多く、最大で22%)です。日本酒は、割って飲むなどの飲み方はあまりなく、基本はストレートで飲むため、アルコール度数、糖質量ともに摂取量が多くなりやすい特徴もあります。夏場の冷酒などは口当たりもよく、グイグイ飲めてしまうところがありますが、量には気をつけていただきたいです」と浅野先生。
厚生労働省「健康日本21」で定めている「節度ある適度な飲酒量」は、1日平均の純アルコールで約20g程度。これは日本酒約1合ほどになるため、おすすめの飲酒量は1合くらいだという。
「アルコールは肝臓で代謝され、1合の代謝に約2時間はかかると言われています。日本酒単体で飲むよりも、つまみを入れながら飲むこと、また、水を一緒に飲むことが大切です。日本酒の際に一緒に飲む水は『和らぎ水』(やわらぎみず)と言い、飲み過ぎや悪酔を防いでくれます。アルコールは利尿作用があり、脱水を起こしやすいので、一緒に水を飲むことがとても重要です。つまみは肝臓の修復に必要なタンパク質の多いものが良く、夏場なら、例えば枝豆などはタンパク質、ビタミンB1(糖質代謝)、ミネラルも多く含む最適なつまみです。そのほか刺身、焼き鳥、冷奴(豆腐)などのタンパク質の多いつまみ、冷やしトマト、きゅうりなど、水分とミネラル(カリウムなど)を多く含む野菜を合わせるのがおすすめ。おつまみと和らぎ水で、二日酔い、悪酔い、脱水を防いで、健康に楽しく飲みましょう」
MAMIKO ASANO | 浅野まみこ
Registered Dietitian
管理栄養士・フードプロデューサー・株式会社エビータ代表取締役。企業の健康経営サポートやヘルスケアの人材育成、商品開発、レシピ開発をはじめ、食と健康のコンサルティングを中心に活躍。講演、イベントで全国を回り、メディア出演も多数。著書に『コンビニ・ダイエット』(星海社新書)『血糖値を下げる夜9時からの遅ごはん』(誠文堂新光社)など。
https://e-vita.jp/
季節に合わせて多様に楽しめるのが日本酒の面白さ
四季折々、旬の料理と合わせて、さまざまな楽しみ方ができる日本酒。燗酒から冷酒まで、温度帯を変えることで微妙な変化を味わうことも、日本酒の面白さのひとつだ。夏ならキリッと冷やして、すっきりとした清涼感を楽しむのもいい。
今回は、GINZA SIXにも店舗を構え、日本の酒の品ぞろえに定評のある酒販店「いまでや」にて、一流レストランへのアドバイスやイベントの企画、メディア出演など多方面で活躍するスタッフの白土さんに、夏に飲みたいおすすめの日本酒を5本、セレクトしていただいた。さらに、創業から91年のガラス専門問屋「木本硝子」にご協力いただき、それぞれの日本酒にピッタリ合いそうな酒器も併せて紹介。
最初の一杯は甘酸っぱい爽やかなスパークリングで
「夏に飲む酒ということで、全体的に軽やかでスムーズ、滑らかな口当たりのお酒を基準に選んでいます」と白土さん。
「滋賀・富田酒造の代表銘柄『七本鎗』は、武骨で骨太、飲みごたえのあるものが多いのですが、こちらは酸味がスッキリ爽やかで軽快な味わい。スパークリングって結構ハードにドライなものも多いなかで、バランスの良いほのかな甘みがあり、その邪魔にならない甘酸っぱさが魅力です。甘みが後を引かず、酸味で口中がリフレッシュするイメージ。夏は辛いものが食べたくなったりしますが、これはタイやベトナムなどのエスニック系の料理によく合います。酸味、甘み、辛みなどが複雑に交ざり合う、個性的な料理と相性がいいように思います。ボトルサイズも手頃で、2、3人で飲み切れるので、最初に開けるお酒として見栄えも良く重宝します。7%の低アルコールなので、日本酒はあまり飲んだことがない、という方にも飲みやすくておすすめ。飲むときはよく冷やして」
酒器はシャンパンをイメージして、すっきりスリムな細長タイプをセレクト。ドイツ人デザイナーが日本酒のためにデザインした器「Greta XANA」は、手で持つ姿をエレガントに見せ、グラスの中にすっと立ち昇る泡を楽しめる。
「細長く、直線的な形状なので、味がシャープに入ってくる印象です」
クリーンな癒やし系、自然に寄り添うナチュラルなお酒
幸福のシンボルといわれるツバメが描かれたラベルの可愛さにも心つかまれる、吉田酒造店の「吉田蔵u 石川門」。日本酒好きには「手取川」という銘柄が有名だが、この「吉田門」は2021年にリニューアルし、若手の蔵人たち中心で造られている。石川県でしか栽培されていない酒米「石川門」を使用し、蔵で代々自家培養した「金沢酵母」で醸した、無添加でナチュラルなオール石川酒。
「“モダン山廃”という独自の造り方をしていて、通常は山廃ってしっかりと重たい印象なんですけど、こちらは酸を生かした軽快で優しい味わい。石川門自体がソフトな味わいのお米で、その特徴を上手に生かしながら、山廃らしい酸で最後にキュッと締めている。ただ優しいだけには終わらない、非常に骨格のあるお酒だと思います。冷やさなくても十分おいしいですが、夏は冷やすと甘みが締まって、この蔵のある地域、白山の山の冷たい湧き水を飲むような清らかな印象です。ナチュラルワインが好きな方にもおすすめ」
料理は例えば桃とモッツァレラなど、みずみずしくてフレッシュな食材が合う、とのこと。サラダやカルパッチョに夏の果物を合わせるなど、火を通さない料理がいいそうだ。
器は膨らみのある形状のステム付きグラス。口元にわずかな反り返りがあり、舌全体にお酒の味わいが緩やかに広がるよう設計されている。
「この膨らみが程よく空気を含ませて、お酒の旨味を綺麗に引き出してくれます。味のメリハリがくっきりする印象。実はこのグラスは本当に優秀で、どんな日本酒にも比較的合わせやすいので、飲食店でも多く使われています。初めて何か酒器をひとつ買うなら、これがおすすめです」
女性杜氏が造る木桶仕込みは、爽快で奥深い味わい
酒蔵ではまだまだ数少ない女性の杜氏が造る、広島の「富久長」。八反草とは、広島を代表する八反系の酒米の最古の在来品種。富久長でしか使われていない酒米で、その米を100%使用した酒。甘みの出ない、ドライでキリッとしたハーブのような野性味のある味わいが特徴。ハイブリッド生酛とは、この蔵が独自に編み出した製造技術で、かなり複雑な工程を経ているが、とても簡略していうと、日本酒のスターターを作る一般的な製造法である速醸と生酛を組み合わせた、いいとこ取りの方法だそう。この製造法により、吟醸由来の爽やかな香りと滑らかさ、自然の多様な微生物による複雑で奥深い味わいがもたらされる。
「前にジェノベーゼとペアリングしたら、すごくマッチしておいしかったんです。青っぽい香りのある葉物系と、バターやオリーブオイルなどの油脂を合わせたような料理がとても合うと思います。バジル以外だと、例えば春菊やチンゲンサイを油で炒めるとか、ピーマンと肉を組み合わせるとか。葉物にチーズを加えた組み合わせもいいと思います。実はチーズと日本酒は大変合わせやすく、特にクリームチーズは万能。シンプルな乳酸系の味わいが、さまざまな料理と日本酒のつなぎ役になってくれます」
選んだグラス「Mai7」は、酒米をテーマにデザインされたもの。名前も米(マイ)からきており、精米歩合70%に磨かれた酒米をイメージしたフォルム。
「八反草は、全国でもここでしか使われていない、とても希少で個性的な酒米です。米のキャラクターをより強く感じてもらえればと思い、遊び心でお米形のグラスを選んでみました。グラスを眺め、手のひらで感じることで五感を研ぎ澄ませ、米の風味を意識して飲む、というのも洒落感があって面白いのではないでしょうか」
きめ細かな酸が特徴、すっきりと心地よい酒
旭川から車で約1時間、北海道のど真ん中あたりにある大雪山の麓に蔵を構える上川大雪酒造。上川町の町おこしにも貢献し、小さなタンクで丁寧に仕込む手造りの酒が人気だ。
「単純な発想で恐縮ですが、夏に北海道の大自然を思いながら飲むっていう心地よさもあると思うんです。ここは大雪山の湧水を源流とする天然水を仕込み水として使っています。清らかな水と空気のイメージどおり、すっきりとした味わいで、大吟醸といっても、穏やかでエレガント。食事にも合わせやすく、理想的な純米大吟醸だと思っています。彗星とは、北海道だけで作られている酒米なんですが、名前もロマンチックで素敵だと思いませんか。最初は冷やして、少しずつ温度が上がってくる過程で味の変化を楽しむのも面白い。フレッシュフルーツやジェラートなどの氷菓、ハーブを効かせた爽やかな料理、柑橘系を使ったものなどと合うと思います。軽快な辛口なので余韻のほろ苦さを生かした料理がいい。レモンのパウンドケーキみたいな、爽やかな味わいのデザートとも相性がいいです」
器はシュッとしたストレートなフォルムの「es Slim01<爽>」。口の中にすっと自然に落ちる形状で、吟醸酒や発泡酒に向いており、すっきり軽快な味わいを引き立ててくれる。
リッチな甘みは食後のデザート代わりにも
最後に紹介するのは貴醸酒。一般的に貴醸酒は、ふっくらとまろやかな甘みがあるので、食後酒やデザートとして楽しまれることが多い。富山・「満寿泉」の貴醸酒は、貴腐ワインのような濃厚で上品な甘さが特徴だが、こちらはさらに貴醸酒を貴醸酒で毎年継ぎ足しながら仕込んだという贅沢版。甘みも濃いのかと思いきや、程よくドライで熟成感のある大人の味わい。
「夏バテで体が疲れたときに、甘いものが欲しくなったら貴醸酒はいかがでしょうか。一日の終わりの栄養補給のようなイメージで、飲むとほっこり癒やされるお酒です。ブルーチーズなどのちょっと癖のあるチーズとよく合いますし、チョコレートと合わせるのもいいですね。またアイスクリームにかけると大人の味になります。氷を入れてロックで飲んでもおいしいですし、ウイスキーをちょっと足してみたりするのも面白い。葉巻と合わせるのもいいですよ」
器は蒸留酒をイメージしたロックグラス。日本の伝統工芸である江戸切子を繊細に施し、モダンにデザインされた、ラグジュアリーな雰囲気が漂う、ちょっと特別感のあるグラスだ。一日のご褒美に、甘く贅沢な貴醸酒をほんの少し楽しみながら、ほっとくつろいだ夏の夜を過ごしてはいかがだろうか。
デイリーなお酒から特別な日の高級酒まで、こだわりの一本が見つかる
IMADEYA ONLINE STORE
1962年に千葉県千葉市に小さな酒屋としてオープン。現在はGINZA SIX、千葉駅構内、錦糸町、清澄白河に店舗を構える。日本酒、ワイン、焼酎などなど、あらゆるお酒を世界中からそろえ、デイリーなものから高級酒まで幅広く取り扱う。特に「日本の酒」に注力しており、日本酒、日本ワインの品ぞろえはピカ一。オンラインショップも充実。スタッフは直接酒蔵へも足を運び、時には収穫や製造を手伝いながら、人間関係を大切にした情報発信を行っている。初心者に向けて酒選びをサポートするプロジェクト「はじめの100本」も好評。
撮影協力:いまでや 清澄白河
東京都江東区平野2-6-8
0570-015-111
器協力:木本硝子
東京都台東区に事務所を構え、ガラス専門の問屋として90年以上、職人と二人三脚しながら、地元のガラス産業を盛り上げている。日本の伝統工芸である江戸切子をはじめ、新進気鋭のプロダクトデザイナーと新しいオリジナルの器も続々開発。お酒のために特別にデザインされた「esシリーズ」は、飲食店や酒販店などのプロからも信頼の厚い人気商品。
AKIKO SHIRATO | 白土暁子
酒販店「いまでや」スタッフ
酒販店「株式会社いまでや」にて、ワインの仕入れ、飲食店への営業、イベント企画など、酒にまつわることなら幅広くなんでも担当するマルチプレーヤー。造り手の現場へも頻繁に足を運び、真摯で丁寧な対応を心がける。社外では、多岐にわたるジャンルで活躍する人々とのコラボレーションイベントも多数開催。日本ソムリエ協会認定ソムリエ。
Content Writing
Kaori Ezawa | 江澤香織
Editor&Writer
フード、クラフト、トラベル等を中心に雑誌、WEB、広告等で執筆。企業や自治体と地域の観光促進サポートなども行う。著書『青森・函館めぐり クラフト・建築・おいしいもの』(ダイヤモンド・ビッグ社)、『山陰旅行 クラフト+食めぐり』『酔い子の旅のしおり 酒+つまみ+うつわめぐり』(マイナビ)等。旅先での町歩きとハシゴ酒、ものづくりの現場探訪がライフワーク。お茶、縄文、建築、発酵食品好き。
Instagram:https://www.instagram.com/caori_ez_japon/