FOOD
知りたい! 正しく上手な糖質との付き合い方
Reported by Yumiko Murata
2021.12.15
「糖質オフダイエット」のブームをきっかけに、糖質(炭水化物)をダイエットの敵のように思っている人は多い。それも美意識が高ければ高い人ほど、その傾向にあるよう。でも本当に糖質をとらなければ、きれいにやせられるのだろうか? また日本人は世界のなかでも糖尿病罹患(りかん)率が非常に高い。しかも欧米人のように「暴飲暴食・運動嫌いの肥満中年がかかる病気」ではなく、やせている人でも油断していると簡単に「糖尿病予備軍」になってしまう。そもそも糖質は私たちの体の中で、どのような役割を担っているのだろう。正しい糖質に対する知識や選び方、ヘルシーなとり方を、管理栄養士で料理家、そして基礎心理カウンセラーの櫻井麻衣子さんに伺った。病気や肥満のリスクを減らし、もっとポジティブに糖質と付き合うためのヒントがたくさん見つかった。
そもそも糖質って、どういう栄養素?
“3大栄養素”は、私たちの体をつくるためにも、生命活動を維持するためにも必要不可欠な栄養素で、タンパク質、脂質、糖質が挙げられる。
「なかでも糖質は、体や脳を動かす即効性の高いエネルギー源です。糖質が足りなくなると脳に必要な栄養素が届かなくなったり、エネルギーを補うために筋肉や脂肪が分解されてしまいます。逆に過剰に摂取するとエネルギーとして使われずに余り、中性脂肪になって飢餓に備えます。すごく重要な栄養素ですが、働き方は極めてシンプルなんです」と語るのは、“女性が心身ともに幸せになれる食事”を発信している管理栄養士の櫻井さん。
「糖質を摂取すると、唾液や酵素によってブドウ糖にまで分解されて血液中に入り“血糖”になります。よく“血糖値”という言葉を聞くことがあると思うのですが、まさにこの血中のブドウ糖の量をさしたもの。ブドウ糖が増えてこの血糖値が高くなると、すい臓からインスリンという血糖値を下げるホルモンが分泌されます。すると数時間で血糖値は通常の値に戻るというしくみです」
この血糖値が私たちの健康の鍵となる。
「血糖値が一気に上がると、インスリンが必要以上に分泌されてしまい、今度は一気に血糖値が下がります。この血糖値の乱高下が食べすぎにつながりやすくなり、結果、体の中の糖が増えて太りやすく、また糖尿病などのリスクも高まります。逆に糖質オフダイエットなどで糖が足りなくなると脳がエネルギー不足になり、判断力が鈍ったり注意力が散漫になることも。体調やメンタル面にも影響を及ぼします」
血糖値の上昇をゆるやかにさせることが、最大のコツ
「血糖値の乱高下を防ぐためには、糖質の吸収をゆるやかにすること。それには量と種類、食べるタイミングが鍵となってきます」。ポイントを以下にまとめた。
1.量について
「厚生労働省の基準では、エネルギーの50~60%を糖質からとるのが理想です。体形によってその人の一日の摂取カロリーは変わってきますが、たとえば2000㎉だとしたら、糖質からとるカロリーは1000㎉程度となります。これを3で割ると333㎉になります。糖質は1gにつき4㎉なので、1食につき83gが目安に。女性のごはん茶碗1杯が150gでそこに含まれる糖質は約50g程度です。ほかの食材からも糖質をとることがあるので、毎食ごはん茶碗1杯弱を目安にしましょう。間食を含めて計算していないので、間食をする場合は少し調整が必要になります」
2.種類について
主食は“お米”がおすすめと櫻井さん。「パンは油や塩分、添加物が入っている場合があります。麺類はむくみの原因になる塩分がどうしても多く、また野菜やタンパク質が不足しがちです。たまにならいいですが、できればお米中心の食生活を。食物繊維の多いもち麦や雑穀などを混ぜるとなおいいでしょう。また気をつけたいのはGI値という、食後の血糖値上昇のスピードを表す数値。白米より玄米、パンならライ麦、うどんよりそばを選ぶようにしましょう」
3.タイミング
「食事の間隔が空きすぎると、血糖値が下がり過ぎてしまうため6~7時間以上空けないことが理想ですが、仕事をしているとどうしても昼食から夕食までが空きがちになりますよね。昼食を12~13時頃にとったのに夕食が21~22時くらいになってしまうという日は、17時頃におにぎりを食べ、帰宅してからおかずをとるようにしましょう。夕食から朝食にかけては内臓を休めることも大切なので気にしなくて大丈夫です」
4.食べる順番
「いきなり炭水化物から食べないこと。フルーツ、野菜、タンパク質をとってから主食に手をつけるのが正解です。水溶性の食物繊維は、ジェル状になって腸での吸収を遅らせてくれます。水溶性の食物繊維が群を抜いて多いのはオートミール、ごぼう、アボカドなので、積極的にとるとよいでしょう」
5.かむ回数
「糖尿病学会によると、咀嚼(そしゃく)回数と血糖値のコントロールには関係があり、咀嚼(そしゃく)力が低下することによって血糖コントロールが乱れてくるといわれています。理想は30回といわれていますが、数えながら食べるのは結構なストレス。“よくかもう”と意識するだけでも十分です」
糖質と前向きに付き合うために。素朴な疑問を櫻井さんが解決!
先ほどの5つのポイントを押さえておけば、血糖値の急激な上昇を避けることはできる。でもまだまだ糖質に関して気になることが 。もっと糖質を上手にとるために、素朴な疑問を櫻井さんにぶつけてみた。
Q.じゃがいもやにんじんなど、GI値の高い野菜は避けたほうがいい?
A.「にんじんだけをもりもり食べるなど、糖質の多い野菜だけをたくさん食べるときは、主食を減らすなど気をつけたほうがよいとは思います。でもそういう機会はあまりないでしょうし、芋やトウモロコシを主食にしている国や地域もあるので、そこまで気にしなくてよいでしょう。ただし、GI値が低いといわれているさつまいもは、石焼き芋のようにじっくり加熱すると一気にGI値が上がります。気をつけてください」
Q.血糖値を上げにくくする飲み物はありますか?
A.「カゼインやホエイプロテインを食事と同時にとると血糖値の上昇を抑えることが分かっています。ミルクを食事の前に飲んだり、シリアルにかけて食べるなどがおすすめです」
Q.朝は排せつの時間だから、糖質はとらないほうがいい?
A.「朝食の欠食がⅡ型糖尿病のリスクを高めるというデータがあります。朝食こそしっかりとってほしいですね。でも、そういうと旅館の朝定食のようなものを想像されて、ハードルが高いように思われる方が多いかもしれません。そうではなく牛乳やヨーグルトと合わせたシリアルとか海苔を巻いた鮭おにぎりやサンドイッチなど。食物繊維やタンパク質もいっしょにとれる手軽なものでもいいんです。前夜が飲み会で胃が疲れているときなどは、ブドウ糖が含まれているフルーツもおすすめです。フルーツには果糖だけではなくブドウ糖も含まれているうえ水溶性の食物繊維も含まれています」
Q.夕食に炭水化物を食べるとむくむと聞いたことがあるが……
A.「細胞と細胞の間に水分が入ってしまうのが、むくみの原因。糖質は関係ないと思います。ただ糖はグリコーゲンに変わるときに水の分子と結合して取り込まれるので、そのように思われる人がいるかもしれませんね。また40歳を過ぎたら夜の炭水化物は控えたほうがいいのかと質問を受けることがあります。外食の多い人など、糖質のとりすぎを実感している人は抜いてもよいと思います」
Q.甘いものがどうしてもやめられない……
A.「主食の量が足りていないのだと思います。実際に以前、ダイエット外来で食事指導をしていたときに感じたのは、ダイエットのために主食を食べていないのに、甘いものをやめられない人が多かったということ。お菓子がダメというわけではありませんが、主食をとらないために体が甘いものを欲してしまうというのは本末転倒です。長期的にみると添加物や酸化した油などの体への影響が心配されます。こういった方たちに主食をとってもらうようにしたら、甘いものへの欲求がなくなりました」
Q.糖質オフ製品なら、たくさんとっても問題ない?
A.「人工甘味料などは、血糖として取り込まれなかったり脳の栄養にならない糖質です。体や脳が満足しないので、『もっともっと糖が欲しい』と中毒性を生むことも。あまりおすすめしません」
理想の一日の食事例を公開! もっとポジティブに糖質と向き合おう
実際に毎日どのくらいの糖質をとっているのか、櫻井さんの一日の食事内容をレポート。血糖値がゆるやかに上がるように工夫された献立にも注目を。
Breakfast
フランスパンは4枚がごはん150gに値するが、味付けに糖質が含まれるのと副菜がポテトサラダなので2枚に調整。また乳製品をポタージュに使用することで血糖値の上昇をゆるやかにしている。
Lunch
茶碗1杯分のごはんに、鶏肉や卵などでタンパク質をしっかりと。さらに糖質が少なく、食物繊維を多く含むナスとズッキーニの副菜をプラス。
Dinner
主食は玄米ごはんを茶碗1杯分。みぞれ煮は調味料で砂糖やみりんを多く使用しているので副菜から手をつけます。
糖質を正しく食べれば、ストレスゼロで、ヘルシーな体に!
今回はっきりしたのは、「糖質は決して悪者ではない」ということ。「ダイエットをする場合も、決してゼロにはせず、適量に、そして組み合わせに注意して食べることが大切です。体が本来欲している良質な食べ物を取り入れれば、ドカ食いなどもしなくなりますよ」
正しく、上手に糖質と付き合うことこそ、未来の健康とストレスのないマインドにつながっていくのかもしれない。
MAIKO SAKURAI | 櫻井麻衣子
管理栄養士、料理家、基礎心理カウンセラー。将来的に目標としていた栄養指導の仕事に就く前に、栄養学のほか心理的なアプローチの必要性を感じ、NLP(神経言語プログラミング)マスタープラクティショナーや日本メンタルヘルス協会で心理学を学び、その後7年間特定保健指導や痩身(そうしん)外来で栄養指導に従事。現在は “心と体と食をつないだ幸せづくり” をテーマに、食事カウンセリングやレシピ開発など幅広く活動中。
Photo: HISAI KOBAYASHI,getty images
Editor’s Note取材メモ
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2022年は、家族と一緒に果実狩りにいきたい!
現在1歳9カ月のお子さんの母親でもある櫻井さん。出産後ずっとコロナ禍だったこともあり、2022年こそはお子さんとぜひレジャーに行きたいとのこと。「果物狩りがすごく好きなので、ぜひ子どもを連れて行ってあげたいです。今、計画しているのが早出しのさくらんぼ。近場のいちご狩りもいいですね。りんごなどはそんなにたくさん食べられませんが、小粒系は『お土産ももういらない』くらい食べられてしまうので、満足度が高いんです」
Content Writing
Yumiko Murata | 村田由美子
Beauty Editor
元『ELLE』ビューティ ディレクター。ファッション誌のビューティ担当を20年以上続け、フリーランスに。『エル・ジャポン』『エル・オンライン』のほか美容誌などでも執筆。食べることと赤ワイン、南の島をこよなく愛し、美容に悪いと思いつつもバカンスでは太陽をたっぷり浴びている(その分ケアもしっかりしています笑)。趣味はダイエットと歌うこと。