ENTERTAINMENT
次々と新しい価値観を生み出す! 女性をエンパワーする韓国ドラマの魅力
Reported by Ayumi Machida
2022.1.17
『冬のソナタ』で火がついた第1次韓流ブームから現在の第4次ブームに至るまで、ずっと韓国ドラマを見続けてきた映画ライターの渥美志保さん。恋愛モノからスリラー、サスペンス、アクション、時代劇などジャンルを問わず視聴し、ついに『大人もハマる!韓国ドラマ 推しの50本』という書籍も上梓。韓国ドラマをこよなく愛する渥美さんに、今回は「女性をエンパワーするドラマ」をおすすめしてもらった。気分が落ちているとき、自信をなくしているとき、このドラマを見ればきっと元気をもらえるはず。
古い概念をくつがえす、女性の生き方を描いたドラマ
「韓国ドラマは、なぜかすごく女性脚本家が多いんです。そのせいか女性が不満に思っていることや、共感することなどがディテールに盛り込まれていて、まさに今の時代にぴったり」と渥美さん。昨年大ブームを呼んだ『愛の不時着』のリ・ジョンヒョク(ヒョンビン)のように、男性像ひとつ取っても、こういう人がいてくれたら……という理想のキャラクターを叶えてくれる。しかもそれが時代と共にどんどん更新されているという柔軟さも見逃せない。「韓国ドラマも昔はシンデレラストーリーが多かったけれど、今はもっと主体性のある女性を描いています。“壁ドン”をやる男性はすごく減っていますね(笑)」
渥美さんが「女性の生き方を描いていて面白い」と、まず紹介してくれたのは『品位のある彼女』。財閥の奥さまウ・アジン(キム・ヒソン)と、家政婦として財閥の家に入ってきて、やがてアジンの義父で会長の後妻におさまるパク・ボクジャ(キム・ソナ)という2人の女性が主役。この2人がとても対照的に描かれていて面白い。アジンは貧しい家庭に生まれたけれど、がんばってキャビンアテンダントになって財閥の息子に見初められて結婚。誰からも好かれる賢い奥さまでありながら、アート関連のビジネスもうまくやっている。でも出世欲はない。一方ボクジャは最初から会長にターゲットを絞り、介護をしながら籠絡していって、ついには妻の座におさまる。やがてアジンは夫の不倫が発覚し離婚。「世間的にはアジンはすべてを失った女で、ボクジャはすべてを手に入れた女になるのですが、ボクジャは幸せを感じない。彼女はそもそもなぜ会長を狙ったかというと、ずっとアジンに憧れて、アジンのような女性になりたかったから。でもどんなに欲しかったものを手に入れても、アジンにはなれないことに気づくんです。対してアジンは、お金や身分を失っても幸せになれる力を持っている。物質的な豊かさだけでは幸せになれないという、女性の生き方を考えさせられるお話です」
仕事にプライドと信念を持った女性たち
韓国ドラマのヒロインはいつも恋愛しているようなイメージがあるけれど、最近は女性が仕事に取り組むさまを丁寧に描く作品が増えてきている。「女性の人生が恋愛だけなんてありえない。昔はよく“失恋から立ち直るには次の恋愛をすること”などと言われていましたが、そんなことはないですよね。一人前の女性の人生が、失恋したくらいで壊れるわけがない。たとえ恋愛がうまくいかなくても、仕事なり友情なり、恋愛以外のことでいくらでも立ち直れるはずだと思いませんか?」。そんな大人の女性たちをリアルに描いた作品が『恋愛ワードを入力してください〜Search WWW〜』だ。
『恋愛ワード〜』はポータルサイトで働く3人の女性が主役。そのうちの一人、業界1位の企業ユニコーンで本部長として働くペ・タミ(イム・スジョン)は、会社の不正をかぶって辞めるはめになり、業界2位の企業バロに転職する。彼女はゲーム音楽の制作を手掛ける年下男子パク・モゴン(チャン・ギヨン)とつきあっていたが、うまくいかなくなり別れることになってしまう。「ところが恋愛がどん底のときに、ついにバロがユニコーンを抜いて業界1位になったという知らせが入ってくる。私たちの人生を活気づけてくれ、明日もがんばろうと思わせてくれるのはそういう瞬間ですよね。恋愛がうまくいかなくたって、仕事が絶好調なら満足できるんです。もちろんその反対で仕事がうまくいかないときに恋愛があるからがんばれるということもありますが、仕事、恋愛、女友達など、人生で大切なものがバランスよく描かれているのが今の韓国ドラマの特徴だと思います」
もうひとつ『恋愛ワード〜』のいいところは、仕事をするうえで絶対ゆずれない“信念”みたいなものがきちんと描かれていること。3人の女性はもともと対立する立場にあるが、最終的には権力の抑圧に反発して、表現の自由を守るために力を合わせていく姿が感動的なのだ。「3人とも自分が人生を懸けて取り組んでいる仕事にプライドがあるからこそ、どうしてもゆずれない信念があるんです。それをゆずることは魂を売ることであり、自分の生き方を否定することだというところで3人は共感します。そうした結束は今まで男性同士では描かれてきましたが、当然女性にだってある。本気で仕事をしている人なら、性別なんか関係なく皆プライドを持っているのだということが描かれています」
同じように『ミスティ〜愛の真実〜』も、報道の自由のために権力と闘う女性がヒロイン。「放送局の人気キャスターであるコ・ヘラン(キム・ナムジュ)が、次々現れる障壁と闘っていく話です。男性なら許されることが、女性だからという理由で蔑まれる。でもやられたらやられた分だけ力を増して、それらの障壁をすべて撃破していくところが爽快です。最初は周りから敵視されていても、彼女が報道人として絶対にゆずれない正義を守っているから、だんだん皆が納得して彼女の味方になっていく。仕事の世界でいう“男も惚れる男”みたいな存在が、女性だったということがあってもいいですよね」
ドラマの中とはいえ、そこに登場する仕事に誇りを持ち自立した女性たちに、私たちは励まされ、勇気づけられる。「フィクションは必ずしも現実とは一致しないけれど、その登場人物はロールモデルになり得るのでは?」と渥美さんは言う。「フィクションが現実の世界をリードしていくことだってあります。実際、韓国では選挙における比例代表の順位が男女交互という制度になり、ジェンダーギャップ指数は日本よりも上。こうしたドラマが作られるということ自体が、今後も女性のエンパワーメントにつながるのだと思います」
現代の女性たちのリアルな恋愛を描く
さて、恋愛が難しいといわれる時代に、現代の女性たちのリアルな恋愛について韓国ドラマはどんなアプローチをしているのだろうか。渥美さんが紹介してくれたのは、実力派スターのチョ・インソンと、ラブコメ女王コン・ヒョジンが主演の『大丈夫、愛だ』。恋愛恐怖症の精神科医チ・ヘス(コン・ヒョジン)と、トラウマを抱えたベストセラー作家チャン・ジェヨル(チョ・インソン)が、韓国ドラマの例にもれず、最悪の出会いからしだいに心を通わせていく様子が描かれる。
「ヘスとジェヨル、それに同居している精神科医とカフェ店員の4人で飲む場面があるのですが、そこで『相手を縛るのは変態か否か』という話題になります。精神科医2人が『正常』と答えるのに対し、ジェヨルは『同意があれば正常』と言うんです。彼はそういうリベラルな考え方の人で、二人の関係もイーブン。それがコミカルに描かれていきます。初めて二人で沖縄旅行に行くシーンがあるのですが、ジェヨルはお金もあるし、はりきってすごく豪華なホテルを予約する。でもヘスは『自分も稼いでいるからお金を払ってもらうのはいやだ、男を金づるにする女にはなりたくない』というんですよね。ジェヨルも彼女の意見をきちんと受け止めて、二人は質素な宿で楽しく過ごします。この作品を手がけた脚本家ノ・ヒギョンは、なんてことのない場面にも女性への目配りが利いています。このドラマの登場人物は誰もが心に傷を抱えていて皆なかなか前へ踏み出せないのですが、基本的に人は誰でもどこか少し変わったところがあるというスタンスなんですよね。それが普通なのだから、なにも恥じることはないというメッセージが温かいです」
第4次韓流ブームを牽引した『愛の不時着』について、渥美さんは「設定は『冬のソナタ』に似て古典的で、今さら?と思いましたが、男女の描き方は2020年的」だという。なぜならリ・ジョンヒョク(ヒョンビン)はユン・セリ(ソン・イェジン)に北朝鮮に来いと言わないし、セリもジョンヒョクに韓国に住めとは言わない。お互いがお互いの人生を尊重して、ラストは結婚とは違う形を選ぶからだ。「現代は恋愛ドラマを作るのが難しい時代になってきたと思います。女性が女性であることを楽しんでもいいし楽しまなくてもいい、女性として認識されつつも、女性としての役割を過剰に求められないという世界が理想だし、それが本来あるべき姿。そういう時代の恋愛ドラマをこれからどう作っていくのか、とても興味深いですね。もしくは恋愛は人生の一要素でしかないという描き方が増えていくのかもしれません」
そんな中、自然体な恋愛をうまく描いているのが『賢い医師生活』ではないかという。2020年にシーズン1、2021年にシーズン2が配信された作品。大学の同級生で現在40歳、今も同じ病院で働く男女5名の医師たちを主役に「平凡な私たちの特別な毎日」が描かれている。医師とその家族、患者とその家族など、一人一人のエピソードが丁寧に積み重ねられていき、毎回涙を誘うと評判になった。学生時代から5人で結成しているバンドが、毎回懐かしのポップソングを演奏するシーンも見どころのひとつだ。医師たちの恋愛についても、少しずつ育まれていく過程がとてもリアルで応援せずにはいられない。「このドラマが素晴らしいのは、看護師が医師を狙っていないし、医師も看護師を同僚として尊重している。一緒にいる男女を冷やかしたり、すぐに恋愛に結びつけることを“前時代的”だとチクリと刺しながら、皆が自然体でいられる世界の中で少しずつ恋愛が育っていくんです。男のくせにとか女のくせにとか、そういう概念がない世界で恋愛を描くのはなかなか高度なテクニックが必要ですが、このドラマは成功しています。美男美女とか偶然の出会いとか、特別なシチュエーションでなくてもこれなら恋に落ちるよね、と納得させてくれるドラマです」
韓国ドラマが世界を平和にする!?
同時代の女性の自然体な生き方や働き方を、真摯に描き出そうとしてくれるから、私たちは韓国ドラマを信頼できるのだろう。そして、ドラマが伝えようとするメッセージにエンパワーされるのはもはや女性だけではないのかもしれない。「今回の第4次ブームでは、男性が韓国ドラマにハマってくれたのがよかったと思います。このブームがずっと続くといいな。私は韓国ドラマも大好きですが、とにかく韓国が好きなんです。だから政治主導で日韓関係が悪いみたいな空気が作られているのがすごくいやですね。そういうものをくつがえすのが文化の仕事でしょう? 韓国ドラマはエンパワーメントのエネルギーがあるので、どんどん支持を得て広がっていくことで、さまざまな偏見がなくなっていったらいいと思います」
Shiho Atsumi | 渥美志保
Writer
映画ライター。TVドラマ脚本家を経てライターへ。ELLE JaponやELLE Digitalをはじめ、女性誌、男性誌、企業広報誌や、さまざまなWEBメディアなどで、映画を中心にカルチャー全般のインタビュー、ライティングを手掛ける。2021年⑫月『大人もハマる! 韓国ドラマ 推しの50本』を上梓。
「エル・デジタル」『推しのイケメン、ハマる韓ドラ』
「yahoo!ニュース」『映画とドラマの向こう側』
「COSMOPOLITAN」日本版『女子の悶々』
Mi-molle『婦人の手習い社会学 世の常識にひざカックン』
Facebook @atsumishiho
twitter @atmsh_official
Editor’s Note取材メモ
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朝のラジオ体操と散歩で楽しみが増えた!
ライターという職業柄、運動不足を気にしていた渥美さん。昨年の夏ごろから、近所の公園でラジオ体操を始めた。そのあと1時間程度の散歩がセットで、朝から営業しているカフェやパン屋などを発見する楽しみができたそう。
Content Writing
Ayumi Machida | 町田あゆみ
Editor
マガジンハウスで『Hanako』『Olive』『BRUTUS』『GINZA』編集部を経て、フリーランスに。『ELLE JAPON』でコントリビューティング エディターを務めるほか、ファッション、ライフスタイル分野で雑誌、書籍、WEB、広告の企画・編集やコンサルティングなどを手がける。犬と器と旅と韓ドラが好き。『エル・デジタル』で不定期に行われている「韓ドラあるある座談会」のメンバー。