BEAUTY
紫外線と上手に付き合う方法。皮膚科医が教える正しいUVケア
Reported by Yuumi Fujii<dis-moi>
2022.3.15
柔らかな日差しや、ふとしたときに感じる空気の暖かさに春の訪れを感じる3月。しかし、3月は気温のわりに紫外線照射量が増え、その威力を増してくるから注意が必要だ。紫外線は、シミやシワなど、エイジングサインの原因となるだけに避けたいところだけど、太陽を避けて過ごすなんて人生がもったいなさすぎる! そこで、皮膚疾患をきっかけに皮膚科医になり、自身の経験を基に患者に寄り添った治療を提案している平田玲奈先生に、太陽との正しい付き合い方を伺った。
老化の原因の8割は光。でも、太陽がもたらすポジティブな効果にも注目を
“紫外線が肌に悪影響を与える” というのは周知の事実ではあるけれど、具体的に何がよくないのだろうか? まずは紫外線の基本を教えてもらった。
「太陽光には、紫外線、可視光線、赤外線とあり、紫外線は太陽光のひとつです。Ultra Violetというため、“UV”と略され、波長の短いものから順にUV-C、UV-B、UV-Aと分類されていますが、私たちの日常に影響するのは、UV-AとUV-Bの2つ。実は、紫外線の9割がUV-Aなんです。
UV-Aは肌の奥まで入り込み、コラーゲンやエラスチンにダメージを与え、肌の弾力やハリ低下や、シワを引き起こすなど、エイジングを加速させます。対してUV-Bは、一般的に日焼けといわれる即炎症“サンバーン”を引き起こし、細胞のDNAを傷つけてメラノサイトを活性化し、シミや色素沈着の原因に。近年では、紫外線以外にもブルーライトや近赤外線といった光も、UV-Aと同じようなエイジングサインを引き起こすといわれています。これら光によって引き起こされるエイジングを“光老化”と呼びます」
紫外線を含めたさまざまな光は、エイジングを促進させるまぎれもない元凶といえそう。しかし平田先生は、太陽が人にもたらすポジティブな面も教えてくれた。
「『夏になると解放的な気分になる』『天気がいいと何だか元気が出る』といった経験をお持ちの方も多いかと思いますが、太陽光が気持ちを明るくするのは、紫外線を浴びることで“幸せホルモン”といわれるセロトニンが分泌されるからです。特に冬の間の日照時間が短いイギリスでは、『紫外線照射量が少ないことで鬱病が多い』という研究報告もあるほど。
さらに、紫外線を浴びることで体内時計がリセットされるので、不眠障害のセラピーとして紫外線に当たることが推奨されています。また、紫外線を浴びると体内でビタミンDの合成が促進され、カルシウムの吸収を高めて骨粗鬆症の予防をはじめ、糖尿病や生活習慣病予防にも貢献するなど、害ばかりではないんですよ。
私も個人的に海や海外のリゾートが好きですし、紫外線を浴びることがすべての悪だとは思っていません。だからこそ上手に日焼け止めを活用して、太陽とポジティブに付き合っていくのがいいかと思います」
肌にダメージを与える光とは?
光老化の原因は、紫外線、ブルーライト、近赤外線。その特徴を知り、日常の対策に役立てよう。
UV-A
日差しを浴びた後、肌を黒くする紫外線。肌の奥にまで入り込み、真皮にダメージを与えてシワやたるみの原因に。冬の季節や曇りの日でも降り注ぐうえ、窓ガラスなども通過する。
UV-B
主に表皮に強く作用して、日差しを浴びた数時間後に肌に赤く炎症を引き起こす。これによりメラノサイトが活性化され、メラニンを生成し、シミや色素沈着の原因に。
ブルーライト
可視光線に含まれているブルーライトは、スマホやPCをはじめ、液晶テレビや携帯ゲーム機器、照明器具からも照射される。UV-Aよりも肌の奥へ届くエネルギー力が強く、色素沈着を引き起こし、シミやくすみの原因になるといわれている。
近赤外線
可視光線と赤外線の境あたりに波長を持つ近赤外線は、まだ研究途中ではあるけれど、紫外線やブルーライトより奥深く、皮下組織や筋肉にまで到達するといわれている。真皮にダメージを与えることで、肌のハリや弾力が失われ、シワ、たるみの原因に。
一緒にブロックしたい大気汚染物質
最近よく耳にする大気汚染物質。排気ガスや工場の煙から出るPM2.5や黄砂、タバコの煙などがその代表例。サイズが毛穴よりも小さいため、肌に付着すると肌内に簡単に侵入し、活性酸素などのフリーラジカルを発生させて、微弱な炎症を起こし、シミや色素沈着、肌の敏感な状態を引き起こす。
正しいUVケア≠高SPF。もう一度UVケアの基礎知識をおさらい
紫外線はもちろん、近年はブルーライトや近赤外線、大気汚染物質からも肌を守ってくれる日焼け止めが登場しているけれど、どのような観点から日焼け止めを選んだらいいのだろうか?
「日焼け止めを選ぶポイントのひとつに、SPF値があります。SPFはUV-Bに対する防御力を表し、数値はカットする時間の長さを表します。そのため、大は小を兼ねるとばかりにSPF50を選びがちですが、これは真夏の太陽の下で長時間室外にいるときに使い、家やオフィスがメインのデイリーユースであれば、肌負担の少ないSPF15~20で十分防御できます。毎日塗れる、肌に合ったものを選びましょう」
SPFとPAの違いについて
SPF
Sun Protection Factorの略で、UV-Bの防止効果を測定し、数値化したもの。SPF50+が国内最高値。
PA
Protection Grade of UVAの略で、UV-Aの防止効果を表す。+の数が多いほどカット力が高く、国内最高値は++++。
「日焼け止めは朝塗ればOKと安心しがちですが、摩擦や汗などで落ちてしまう可能性があるので、外出時であれば2~3時間置きに塗り直す必要があります。その際は、紫外線カット機能があるパウダーやスプレーなどを使うのもおすすめです。日傘や帽子なども物理的に紫外線をカットするという意味では有効。しかし、気をつけたいのがマスク。マスクをしていると紫外線をカットしていると思いがちですが、不織布マスクは紫外線を透過してしまいます。マスクをするにしても日焼け止めは必須です。
最近は、クリームタイプだけでなく、ジェルやパウダー、スプレーなど、さまざまな形状の日焼け止めがそろっています。SPF50ですべてをまかなおうとせず、使用するシチュエーション別に、SPFの数値や形状が違う日焼け止めを使い分けるのもいいと思います」
SPF15とSPF50で紫外線B波防御力の差は5%以下
SPFが高くなった分だけ紫外線からの防御力が上がるということではないことが科学的に証明されています。一方、ケミカルな紫外線吸収剤を多く配合することは、肌へのフリーラジカルによるダメージの引き金にもなりえるのです。
スキンケアで肌バリアを整えておくことも大切
「意外と見落としがちなのが保湿ケア。乾燥した肌はバリア機能が低下しやすく、紫外線の影響を受けやすい状態なので、毎日のスキンケアでしっかり保湿をするようにしてから日焼け止めを塗るのが基本です。さらに、紫外線によって肌内のビタミンも枯渇してしまいます。ビタミンA、CやEのほか、抗酸化物質を豊富に配合したスキンケアを取り入れるのもおすすめです。ただし、日焼けをして肌が赤くなったり、ヒリつきがあるときにスタートするのではなく、日頃から使って準備しておくようにしましょう」
紫外線対策の基本
①日焼け止めを毎日塗る
室内作業であってもSPF15~20の日焼け止めを塗ることが大切。
➁衣服やストールなどで肌を覆う
物理的に紫外線を遮る効果が。一般的に白色より黒色のほうが紫外線カット効果が高いといわれている。ただし過信は禁物。
③日傘をさす、帽子をかぶる
顔周りに日陰を作る目的もあるけれど、髪や頭皮を紫外線から守る効果に注目。髪や頭皮も紫外線を受けると、細胞ダメージで抜け毛や薄毛などエイジングの原因に。
④サングラスをかける
紫外線は目からも入り込み、メラノサイトを活性化するといわれているから、長時間外出するときはサングラスも忘れずに。
⑤飲む日焼け止めでダブルケア
飲んだからといって肌が黒くならないわけではないけれど、細胞ダメージを抑える効果が。
⑥カットシートを活用する
窓際で過ごすことが多いようであれば、窓ガラスにUVカットシートを貼ったり、UVカット眼鏡の使用がおすすめ。PCやスマホは、ブルーライトカットアイテムを積極的に活用して。
正しく塗らないと効果は半減? 日焼け止めの塗り方
「大切なのは、ムラなく均一に日焼け止めを塗ることですが、実はこれがとても難しいのです。両手になじませて一気に肌へのばし広げるような塗り方をすると、どうしてもムラになり、防御膜に隙間ができてしまいます。大切なのはたっぷりの量を、何回かに分けて丁寧に塗ること。
日焼け止めを手のひらに取ったら、指の腹で、頬、額、鼻筋、口周りと塗っていきます。また、あご下や耳、首の後ろや胸元も焼けやすいところなので、ここもお忘れなく。これを何回か繰り返して重ね塗りをしていきましょう。このとき、力を入れてしまうと前に塗ったものをこそげ落としてしまうため、優しく重ねていくように意識してください」
日焼け止めを正しく使う5つのポイント
- ① 気持ち多めの量をムラなくなじませる
- ② 忘れがちなあご下や耳、襟足、胸元も塗る
- ③ スキンケアで肌のベースを整えてから日焼け止めを塗る
- ④ 在宅でも、曇りでも雨でも必須
- ⑤ シチュエーションに合わせてSPF値を選ぶ
「日差しの強さ=紫外線量と思われがちですが、UV-Aは一年を通して同量降り注いでいますし、たとえ室内でもUV-Aやブルーライト、近赤外線の影響を受けてしまいます。でも、正しく日焼け止めを活用すれば必要以上にネガティブになる必要はありません。今はいい製品がたくさんありますから、UV防御効果だけに注力するのでなく、テクスチャーや使用感などからお好みを選び、“日焼け止めまでが朝のスキンケア”として普段使う化粧品の側に置いておくといいですよ」
いよいよ太陽の下でアクティブに過ごす季節が到来! 紫外線を避けるだけでなく、ポジティブに付き合っていこう。
RENA HIRATA | 平田玲奈
Dermatologist
高校卒業後、国際基督教大学国際関係学科に入学し、経営学を学ぶも、子どもの頃から治療を繰り返していた皮膚疾患が増悪したため入院。自身の皮膚疾患をきっかけにスキンケア、皮膚科学、美容医療に興味を持ち始める。医療を通じて肌の悩みのある方の力になりたい。そんな思いがきっかけで医師を目指すことを決意し、東邦大学医学部医学科に入学。卒業後東京慈恵医科大学付属病院にて形成外科、皮膚科に携わる。その後、美容医療の分野へ。美容医療の中で抗加齢(アンチエイジング)医療、及び美容婦人科に興味を持ち、大手美容外科クリニック院長就任後多くの症例を経験。これまでの経験を生かし、さらにお客さまに寄り添った医療を提供したいと考え、2020年に表参道レジュバメディカルクリニックを設立。
https://rejuva.jp/
Photo: TETSUO KITAGAWA
Editor’s Note取材メモ
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平田先生が「自分らしさ」を取り戻す瞬間は?
皮膚科医として、さらに妻、母として、忙しい日々を過ごしている平田先生。そんな平田先生が、自分らしさを取り戻すために取り入れていることを伺ってみた。
「昔からアートが好きで、いろいろなインスピレーションの源を求めて、そして、自分をリセットするために、時間が許す限り美術館へおもむくようにしています。また、時間がなかなか取れなくてゆっくりと美術館に行けなくても、街頭にあるオブジェやアート建築を見るだけでも美術鑑賞気分は味わえます。6歳になる娘もアートが好きなので、一緒に美術館を回っては、お互いがどう感じたのかをディスカッションするのも楽しくって。最近は、自然豊かでさまざまなアクティビティも楽しめる千葉県にある『市原湖畔美術館』がお気に入りです」
普段はバリバリと働きながら、休日はお嬢さんとアート鑑賞&ディスカッション。この緩急をつけたライフスタイルが、平田先生を形成するベースなのかもしれない。
Content Writing
Yuumi Fujii | 藤井優美
Beauty Editor
『ELLE』『Women’s Health』などの雑誌・WEBメディアでも執筆。美容系編集プロダクション「dis-moi(ディ・モア)」主宰。エステティシャンを経て、美容エディターになること25年以上。美容専門誌をはじめ、多くの女性誌で美容情報や女性のヘルス特集を手掛ける。年間、数多くの研究者、医師、美容家などの取材をこなす。