BEAUTY
2021年の美の新基準を知る。
ビューティ界のキーパーソン3人に会ってみた!
Reported by Yuumi Fujii
2021.1.15
誰もが予想だにしなかった出来事により、世界が新たなライフスタイルへの移行を余儀なくされた2020年。そのとき、美のエキスパートたちは何を思い、何を見極め、どう動いたのか? そして年が明けた今、新しい毎日をどうマネージしようとしているのだろう? これまで主に美容業界で新次元を切り開いてきたキーパーソン3人からその“答え”を探りたいと思う。
誰かが美を求めるのであればそれに応えることが使命だと感じた
——美香
新型コロナウイルスの影響で、これまで経験したことのない、正解すら見えない、まるで大海原に投げ出されたかのような暗澹たる思いをした2020年。そんな中でも決して歩みを止めなかった3人。彼女たちのwithコロナライフを伺った。
「外出自粛要請から休業するサロンもありましたが、私はお越しになりたい方が1人でもいらっしゃるのであればサロンを開けるという信念で営業をしていました。もちろん、お客様やスタッフを守るための感染対策は限界まで万全にして。結果、多くのお客様からは感謝のお声をいただき、空いた時間はスタッフの勉強に充てることで、私もサロンも停滞することは一切ありませんでした」
と話すのは、南青山のヘアサロンAMATAのオーナーであり、ビューティ・プロデューサーである美香さん。ヘアケアを文化として捉え、外見上の“美髪”だけでなくケアを通して精神的に豊かになる時間を顧客に提供する、革新的な彼女のサロンは、今年創立19年目を迎える。
コロナ禍でも彼女の行動はスピーディだった。ネットで世界情勢を収集し、日本の状況を俯瞰的に精査。自粛前の1月にはすでにマスクを確保し、3月以降スタッフだけでなく、マスクが入手できないお客様にも惜しげもなく配布した。さらに7月には、手荒れで悩む美容師のために開発された手指消毒液を一般の人でも購入できるように商品を開放するなど、常に時代が求めているものをいち早くリリースし続けた。
非常時こそ発信力を磨いた。「美容はなくならない!」と強く確信
——長井かおり
時代を捉える——。
それは、ヘア&メイクアップアーティストの長井かおりさんも同じだった。アーティストとしてはもちろん万人が共感するメイク理論で知られ、著書は累計25万部を突破。ブログやSNSでも積極的に読者への発信と交流をおこなっている最旬コミュニケーターのひとり。
「リモートワーク、マスク着用が常態化すると、みんなメイクをしなくなってしまうのではないかと、恐怖すら感じたほど。だからこそ、美容の楽しさを忘れてほしくないために、すぐ『お家メイク』や『ハンドマッサージ』『コリほぐし』など、メイクテクニックだけでなく、自分でできるさまざまなTipsを提案してきました。正直どんな反応が返ってくるかと不安でしたが、ふたを開けてみたら、『やってみたよ』とか『いつもはつけないカラーに挑戦してみた』など、ポジティブなコメントを今まで以上にたくさんいただいて。その声を聞くたびに、“ああ、どんな非常時であっても美容はなくならない”と、強く確信しました」
1日にSNSを3~4回アップしては、その反応を見て、自分の感覚とすり合わせ、さらに新しい提案をしてみる。コロナ禍において世の中から何を求められ、それにきちんと応えられているのか、毎日、毎回が試行錯誤の連続だったと長井さんは回想する。
悲観的になるより前進を。無料レッスンをシェアしてリスタート
——RISA
LA発のワークアウト「POP PILATES(ポップピラティス)」を日本に普及し、パーソナル・グループインストラクター、フィットネスモデルとして活動中のRISAさん。メリハリのある彼女自身の“砂時計ボディ”は時代の象徴であり、2児の母(現在第3子を妊娠中)としての自然体なライフスタイルも注目の的。
彼女にとってもコロナ禍によりビジネススタイルを大きく転換せざるを得なかった。
「私は切り替えが早く、レッスンができなくなり、毎週おこなっていたレッスンやイベントがなくなったときも、落ち込むより先に“みんなが楽しめるものは何だろう”とまず考えていました。そこでインスタグラムでポップピラティスのライブ配信をスタート。少しでも自粛期間を健康に楽しく過ごしてもらえたらと、トライ&エラーを繰り返しながらもほぼ毎日続けていました。当時は必死でしたが、半年経った今ではオンラインレッスンがすっかり当たり前の存在になりましたね。イベントも今はオンラインがメイン。この状況はみな同じ。だからこそ、その時その時で自分ができるベストを探し、行動しています」と、こともなげに語る。
仕事はオンラインが中心となり、余裕ができた時間で勉強を
——RISA
マスク着用、リモートワーク、旅行や会食自粛……。私たちの誰もが無理を強いられる生活にストレスを感じるものの、自分を見つめ直す時間ができたことで、新たな気づきを得た面も多い。では、美のエキスパートたちはどうだったのだろう。
「今までは外に行けば楽しいことがたくさんあり、たとえ落ち込んでも気を紛らわせることができたけれど、それもままならなくなったとき、大切なのはやはり自分の気持ちの持ち方なんだと改めて実感。私の場合は身体を動かしているときにまさしく、物事がポジティブに捉えられるようになるんです。
コロナの影響だけでなく、10年ぶりに第3子を妊娠したのもあり、ライフスタイルは大きく変わり、まさに初めてずくめの毎日。レッスンをはじめ、イベントや打ち合わせがオンライン中心になったことで時間に余裕が生まれ、勉強ができるようになったのもうれしい変化。今は海外の産前産後の最新フィットネスをオンラインで受講し、YouTubeで配信しています」と、どこまでもポジティブなRISAさん。
オンラインでみんなとつながれる。コロナ禍でリマインドできた「好き」なこと
——長井かおり
一方で長井さんは、これまで平日はほぼ撮影で女優やモデルのヘア&メイクを担い、土日はイベントをおこなうといったハードな生活を送っていた。
「コロナ禍でもますます四六時中仕事のことばかり考えていましたね。自粛期間中は撮影やイベントがなくなり、時間ができた分、話題の映画やドラマを観て、何に生かそうか考えてみたり、メイクアイテムにじっくり向き合って新たな魅力を発見したり。それはまさに“時代を読む”時間でした。そして改めてというほどでもありませんが、気づいたこと。私、この仕事が本当に好きなんです!
今、撮影はだいぶ平常に戻りましたが、イベントはオンライン配信に。みなさんに直接お会いできなくなったのは残念ですが、実はリアルライブよりオンラインのほうがズーム機能が使えたりしてメイクの細かい部分まで見ていただけるんです。何よりオンラインによって、これまで会えなかった全国の人ともつながれたことがすごくうれしかった。実はいいこともいっぱいあったんです、コロナ禍でも」
マスクが要らなくなったときに視野や心が狭くなっていないように
——美香
「仕事が趣味みたいなもの」と笑うのは美香さんも同じ。サロンを創立してから、長年生活スタイルは昼夜逆。正午から22時までサロンワークをし、翌朝3~4時までがデスクワーク。美香さんのクリエイティビティはこの時間に生まれることが多い。
「いいと思ったらすぐに行動しています。経営者としての私のフィロソフィは、スピード感を重視。お客様にフレッシュさを抱いていただくには、常にこちら側のフレッシュさが必要ですから。そのために、各方面へアンテナを張り、情報収集に努めてメニューをはじめ、サロン自体を常にアップデートしています。そうすることによって、お客様が技術以外にも高揚し、満足してくださる。私はそのストーリーを創り上げ、スタッフにトレーニングし、お客様に提供をし続けます」
その原動力は何なのか?
「“美しいものを追求する”という気持ちにいつも目が向いているのです。そのベクトルは、ヘアだったり肌だったりと人それぞれだとは思います。私はその伝道師として、とにかく情報の引き出しをいっぱい持っていたい。といっても、それはいい意味で広く浅く。深掘りしていたら、その分野だけの専門家になってしまいそうですからね。この知識をスタッフ、そしてお客様に伝えることで、それぞれが目指す美しさが見えてきます」
「たとえコロナ禍が収束したとしても、これまでの生活は元に戻らない。マスクを外したときに、自分の心が狭くなっていないよう今こそ自分を解放するものを手に入れておかないと。世界的なパンデミックだから苦しいのはみんな同じ。自分だけ疲弊することなんてないんです。この状況下でも必ずある楽しいことをどんどん見つけていきましょう」
依然として先行きが不透明な日々が続く2021年。2020年が“自分を見つめ直した年”となるのなら、2021年はまさに“行動に移す時”。今回お話を伺った3人はそれぞれ一様に、自分を見つめ直した結果、「他人に自分の持っているものを与えたくなる気持ちがさらに強くなった」とコメントしたのが印象的だった。2021年の美容の世界には、さらに優しく共感性の高いヒト・モノ・コトが日々、あふれてくるかもしれない。
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Mika | 美香
AMATA Owner
Beauty Producer
Hair Specialistファッションデザイナーから転身し、本当に自分が行きたい大人のためのヘアサロン「AMATA」をオープン。サロン運営をはじめ、サロンマネージメント・プロデュース・プレスなどをこなす一方、多くのメディアでコメンテーターとしても人気を博している。
AMATA http://www.pro-feel.net/
https://www.instagram.com/mikaamata/ -
Kaori Nagai | 長井かおり
Hair&Make up Artist
美容部員として百貨店に勤務後、ヘア&メイクアップアーティストに転身。雑誌やウェブなどで美容企画を多数担当し、年齢や肌色にとらわれないメイクテクニックが人気となっている。著書も多く、一人一人に寄り添うメイクレッスンも「予約の取れないメイクレッスン」として知られている。
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RISA | リサ
POP PILATES Instructor
Fitness Instructor
Fitness Model1987年LA生まれ。妊娠・出産による体の歪みと不調を機にピラティスを始め、2016年に日本初のポップピラティスインストラクターとなる。現在、音楽に合わせて流れるように動く「フローピラティス」など、新プログラムも多数考案。
https://www.instagram.com/risapilates/
Photo: Sadato Ishizuka, Tetsuo Kitagawa
Editor’s Note取材メモ
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1日の過ごし方から見える新しいタイムマネジメント術
コロナ禍の変化で一番多く聞かれたのは、打ち合わせのオンライン化だ。これまで移動の時間や、人と会うための準備に必要だった時間が、削られたことで、1日の限られた時間を、より効率的に使うことができ、また圧縮された時間は、自分の余暇や勉強に充てるなど、ポジティブな変化としてみんなが受け入れていることがうかがい知れた。2020年の「とある1日」の過ごし方を3者に伺った。
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美香さんの1日
サロン経営という仕事柄、正午から22時までのお店の営業時間を中心に1日のサイクルは刻まれていく。特筆すべきは、オンライン発表会(主に化粧品ブランドが主催する新製品の説明会)や打ち合わせ、インスタでの発信(1日約2~3回)などを、サロンでの接客を大切にしながら、その隙間に驚くほど多くこなしていることだ。「ビューティに関わることでしたら、どんな些細な情報でも、自分がよいと思ったことは、取り入れて、発信していきたいと考えています。そのためにも常に新しい情報や、自分で調べる時間をつくることを日々心がけています」。コロナ禍のオンライン化で、そういった情報収集もより効率的になったという。サロンクローズ後の24時以降は、1人でおこなうデスクワークの時間に。アンケートやコラム連載の執筆、イタリアを中心とした海外とのやりとりの時間として充てられる。「昼夜逆転と、驚かれる方が多いですが、仕事柄、皆さんと半日ズレているだけです(笑)。また自分にとって質のよい睡眠もとれるなど、長年この仕事を続けながらベストなサイクルとして定着したものです」
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長井さんの1日
撮影を中心としたヘア&メイクアップアーティストとしての仕事柄、コロナ前とコロナ後で、大きく生活のサイクルには影響はなかったと話す長井さん。ただ、緊急事態宣言後の自粛期間中をはじめ、仕事の打ち合わせがオンラインに続々と切り替わるなど、これまで、慌ただしく過ごしてきた毎日のなかに、少しずつ予期せぬ時間の余裕を見つけられるようになったという。「これまで新製品からトレンドの情報を追うことはできましたが、ファッションやその他、ビューティの周辺の情報は上澄みばかりで、深掘りして調べることができませんでした。時間に余裕ができた分、自分も楽しみながらSNSやネット、オンライン動画で、世の中の動きや昔の映画にたくさん触れる時間をつくることができ、コロナ禍で情報を発信していくなかでの、自分のモチベーションや、仕事の観点での情報収集に大いに役立てることができました」
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RISAさんの1日
「こうやって、1日を書き出してみると、昔に比べて少し余裕のある毎日が送れているのかな」と笑いながら答えてくれたRISAさん。早朝のヨガ、ピラティスから始まり、日中は撮影やレッスン、夕方は自身のトレーニングなど、細かく区切られた時間割に充実した日常がうかがえる。ここ数年は、自身のピラティストレーナーとしての活動だけでなく、同じように活躍するトレーナー約200名の育成やサポートにも積極的に取り組んでいるという。夜9時からおこなうオンラインチャットは、そんな活動のひとつ。「週に2回、集まれる人だけ集まって、コミュニケーションをとれる時間を大切にしています。私自身もそうだったんですが、トレーナーになるまでよりも、独立してからのほうがいろいろと大変。集客についてや、生徒さんとのやりとりの悩みなど、お互いに勉強することも多い。みんなで話をしながら、つながりを大切にして、フィットネス業界が前に進むことを目指しています」
Content Writing
Yuumi Fujii | 藤井優美
Beauty Editor
『ELLE』『Women’s Health』などの雑誌・WEBメディアでも執筆。美容系編集プロダクション「dis-moi(ディ・モア)」主宰。エステティシャンを経て、美容エディターになること25年以上。美容専門誌をはじめ、多くの女性誌で美容情報や女性のヘルス特集を手掛ける。年間、数多くの研究者、医師、美容家などの取材をこなす。